タマと家族と松尾家と
翌朝になると足の裏は薬のおかげか昨晩よりは痛く無くなっていた。
純平先生はしばらくは立っちゃ駄目だと言っていたが、仕事を休む訳にはいかない。
お母ちゃんは13年前に階段を踏み外して足を怪我してから膝が痛くなって長時間立っていることが出来なくなってしまっている。
今はお祖母ちゃんと2人でわら草履を作って売っているのだが、たいした収入にはならない。
だからあたしが大黒柱で頑張らないとならないのだ。
真夜中に目が覚めて便所へ行ったときも足の外側の側面で立って歩いた。
膝が外側に曲がって格好は悪いが何とか歩くことが出来る。
寝た姿勢のまま顔を左右に向けて見ると、あたしを挟んで寝ていたお母ちゃんとお祖母ちゃんはすでに起きていて、お借りした布団のシーツを取って、布団をたたんで押し入れに入れていた。
あたしが起きると、お母ちゃんとお祖母ちゃんがあたしの寝ていた布団のシーツを取って布団をたたんで押し入れに入れた。
部屋の隅には多分お母ちゃんが松尾邸の雑巾置き場から持って来たと思われる雑巾が置いてあって、お母ちゃんが客間の畳を拭いて掃除し始めたので、あたしが代わると言って雑巾を取り上げた。
お母ちゃんは四つん這いをあまりすると膝が痛くなる。でもあたしは四つん這いなら足の裏は痛くない。
掃除をし終わると、お母ちゃんとお祖母ちゃんは奥様が起きる7時まで客間の隅っこで座って待って、7時を過ぎたら挨拶に行って帰ると言っていた。
あたしは淋しくなったが、それはいつものことなので我慢した。お別れのときはいつも淋しくなる。ずっと一緒に暮らせるようになればいいのに。
足の外の側面で立って布団のシーツを持ち上げると、お母ちゃんとお祖母ちゃんが心配そうな顔と声で仕事は休めないのか?奥様に言ってやるから休めなどと言ってきたので、シーツを持って行きがてら女中の皆に休むことを伝えるとウソをついて客間をあとにした。
布団のシーツを抱えて足の側面で歩いてお勝手口へ向かっていると、正面からヨネが早足でやって来てあたしからシーツを取り上げた。
「足痛いんだろ?無理しちゃ駄目だ。今日からしばらくタマは座り作業のみだ」
「足の裏の皮がめくれているだけだ。大したことでは無い」
「血が出て肉が見えてただろ!?あんなの痛いに決まっている!!ていうよりシーツ置いてきたらおぶってやるからここで待ってな!!」
そう言うとヨネは台所へと走って行った。
廊下を走ると奥様に怒られるのだが。
あたしはヨネの言うことを聞かずに台所まで歩いて到着した。