タマと家族と松尾家と
綺麗な部屋で綺麗でふかふかの布団の中に入って久々に同じ部屋で一緒に寝るお母ちゃんとお祖母ちゃんといろんな話をして何だかとても幸せだった。
旅行に行ったことも宿泊をしたこともないが、高級な旅館に旅行で来ているような気分にもなれた。
あたしはお母ちゃんとお祖母ちゃんに聞いた。
「そういえば次男の賢吉が新しく家を建てたからそこで女中をしないかと言ってくれている。お母ちゃんとお祖母ちゃんの部屋もあるそうで、3人一緒に暮らしながら働かせてくれるそうだ。ここの年季が明けたら皆で一緒にそこに住まないか?」
お母ちゃんとお祖母ちゃんは顔を見合わせた。
「そりゃぁ、願ってもない話だけど、本当に女中の仕事だけでわたしたちも一緒に住ませてもらえるのかしら?」
そうお母ちゃんが言うとお祖母ちゃんも続けて言った。
「この松尾家の方々はずいぶん親切みたいだけど、その親切の上にあぐらをかくような真似はしちゃいけないからね。わたしたちまで一緒に住ませてもらう訳にはいかないよ」
お母ちゃんがお祖母ちゃんに言った。
「わたしも昔ここで働いてたけど、多分タマが気に入られているからこんないい部屋に泊めてもらえたりそういうお話を頂けるんだと思う。だってわたしが働いていたときに知っている奥様も坊ちゃまもこういうことをするようなお人ではなかったから」
「そうなのかい?」
お祖母ちゃんは目をパチクリとさせてあたしを見た。
あたしも目をパチクリとさせてお母ちゃんを見た。
「そうなのか?」
その後もあれこれ話したあげく、お母ちゃんとお祖母ちゃんは正当な理由もなしに賢吉の家には住めないという結論に達した。
あたしは何だか残念な気持ちになっていた。
せっかくのうまい話だったのだが。