タマと家族と松尾家と
誘拐されて松尾邸に戻って来て、足の裏を怪我していたあたしは純平先生に診てもらうことになった。
純平先生は一旦家に帰り、大きな鞄とヨモギの生えた植木鉢を持って来ると、あたしの足の裏の傷部分に付いた砂や埃を井戸の水で洗い流した後、あたしを抱きかかえている賢吉に、治療できる場所はないかと聞いた。
あたしの隣りに立っていた奥様が客間を使うようにと言ったので客間に移動した。
客間の青い綺麗な畳の上に敷かれた白い座布団に座らされた先生は、あたしの足の裏に塗り薬をたっぷり塗って、その上からヨモギの葉を乗せて包帯で固定してくれた。
純平先生は優しくて穏やかで一緒にいると安心できて、純平先生の手は大きくて温かくて、あたしは何だかドキドキしていて、純平先生が治療のために触れたところからピリピリと心地の良い熱が広がるのを感じていた。
これは一体何なのだろうか……?
純平先生は足の裏の傷が化膿しないようにこまめに取り替えるようにと、たくさんの包帯と薬を出してくれて、ヨモギは植木鉢まるごと置いていくと言われた。
お金を払おうと思ったら「松尾の奥様からすでに払ってもらった」と言っていた。
あたしは驚いた。
奥様はあたしをいつも怒っているのに何故払ってくれたのだろう?今日の買い出しが出来なかったことは怒ってないのだろうか?
すぐ側であたしの足の手当を見ていた奥様に「本日の買い出しが出来ず誠に申し訳ございませんでした。治療費出して頂きありがとうございました」と頭を下げた。すると奥様は「そんなの別にいいわよ」と許してくれた上に、治療をするのにお借りしていた本邸の客間で「今日は家族でここに泊まりなさい」と言ってくれた。
そうか。奥様は今日は機嫌がいいのかも知れない。