龍之介の憤慨
タマは父親はいないし僕への手紙も書いていないと言っていた。
そこで浮かび上がる1つの結論は、愼志朗さんが嘘の手紙を用意していたということだ。
僕は腹立たしさと同時に悲しみを覚えていた。
愼志朗さんのことは信じていたのに……!!
でも一体何のためにそんなことを……
屋敷に帰った僕は玄関を入ってすぐに出迎えに来た愼志朗さんを問い詰めた。
「何故嘘の手紙でやり取りをして騙したのですか!!?何故タマが死んだだなんて嘘をついたのですか……!!?」
愼志朗さんはその場に土下座をして謝った。
「大変申し訳ございませんでした……!!!言い訳はございません!!!どうかお気の済むまで私を罰してください!!!」
「土下座をしてほしくて聞いてる訳ではありません!!!何故あんなことをしたのかと聞いているんです!!!」
「華族である若様と女中であるタマさんが結ばれることは無いからです!!!妾として迎えることなら出来ますが、若様はタマさんを妾ではなく本妻にしなくては気が済まないのでしょう!!?ならば引き離すしかなかったのです!!!」
「嘘の手紙は何故書いたのですか!!?僕はずっとタマと両思いで心が繋がっていると信じていたからここまで頑張ってきたのです!!!毎日タマと一緒になれる日を夢見てそのために頑張って……タマは僕のことを好きじゃないのにバカみたいじゃないですか!!?」
「おっしゃる通りです……!!!申し訳ございません!!!手紙は若様の向上心を仰ぐために書きました!!!神戸に引っ越したと書いたのは若様が安易に会いに行けないほど遠くへ行ったことにするため、亡くなたことにしたのは若様に見合った身分の令嬢と縁談を進める為です!!!すべて私の独断です!!!」
怒りのあまり言葉がすぐに出てこなかった。
土下座をする愼志朗さんの後頭部を見ながら考えていた。
果たして本当に全て愼志朗さんの独断だろうか……?
お祖父様に忠実な愼志朗さんがお祖父様の断りもなしにあんな真似が出来るとは思えない。というよりも、お祖父様からの命令でやったことを独断でやったと嘘をついていると考えたほうが納得出来る。
「……頭を上げてください……お祖父様はもう寝てますか……?」
「はい……。明日も早朝から仕事がありますので……」
そのとき寝間着姿のお祖父様が二階から下りてきて張りのある声で僕に話しかけてきた。
「愼志朗は私の命令に従ったまでだ。まさか女中と再会するとは誤算だった」