タマの苦悶
話を聞いてくれた龍之介はキリッとした顔で言った。
「分かった。僕がそのキヨさんを必ず助け出すよ!!」
その言葉にあたしの目の前はパァッと明るくなった。思わず龍之介の方へ身を乗り出した。
「本当か!!?身請け以外に助ける方法があるのか!!?」
「ああ。僕に任せてほしい。亀太郎さんと会いたいのだけど、分かりやすい特徴とかあるかな?」
「夕方になるとしま屋の前から2階の部屋を見上げている、気が抜けた優しい顔をした男だ!!背は女と同じくらいで細くて白くてつぎはぎのある着物を着ていた!!」
「分かった。明日にでも行ってみるよ。だからタマは何も心配しなくてもいい」
まるで龍之介ひとりで行くみたいな言い方にあたしは混乱した。
「あたしも行ったほうがいいのではないか?」
「いや。タマを2度と吉原に行かせたくない」
そうキッパリとした口調で言った後、やさしい口調で続けた。
「キヨさんとはまた会えるように住所を聞いておくよ」
「ありがとう……だがあたしは何もせず龍之介ひとりに全てを任せることに申し訳なさを感じる……さっきも助けてもらって千円も借りた上にキヨまで助けてもらってどうお返しをすれば良いやら……」
「さっきも言ったけど、千円は貸したんじゃなくて僕が払いたくて払った金なんだ。僕のものは全てタマのものだから僕のすることに負い目を感じる必要はひとつも無いんだよ?」
「龍之介のものは龍之介のものだ。あたしのものではない」
「タマのものだよ。僕の今の地位も財産もこの命も全てタマのものだ。僕はタマのものなんだ」
優しくてどこか淋しそうで少し潤んでいて、でも力強い目はまっすぐあたしを見ていて、真剣に言っていることが伝わってきた。
なぜ龍之介の命があたしのものだなんて言うのだろう?
聞きたかったけど何となく聞けなかった。
龍之介を見つめたまま動けなくなっているとタクシーが停まってレストランに到着した。