タマの苦悶
キヨを今すぐにでも助けたい。けれどもどうやって助ければいいのか分からない。
逃げてみて分かったのだが、門の所にも男の人が見張っているし、遊郭という場所は逃げることが不可能だ。キヨが言った通りだった。
龍之介が助けてくれなければあたしはどうなっていたのだろう……?
龍之介は千円を返さなくてもいいと言ったが、こんな大金をもらう訳にはいかない。千円でも一生かけて返せるか分からないのに、返すあてもなく、キヨの身請け金も貸してくれとはさすがに言えなかった。
それから諭吉と賢吉と栄吉が来て、あたしの腹の虫がキュルルルと鳴いたのでみんなでレストランへ行くことになった。
賢吉の自動車は運転手を入れて3人乗りで、タクシーも同じ3人乗りだ。
レストランへ行くことになったあたし達は、賢吉の自動車とタクシーに別れて乗って移動した。
賢吉は龍之介があたしを連れて逃げると駄目だからとタクシーの後ろを走っていた。
女中の年季が終わってないのに居なくなるのはたしかに駄目だからな。
大丈夫だぞ。賢吉。あたしはちゃんと年季は果たすからな。
タクシーの中であたしは足の裏が自動車の地面につかないように、かかとを地面に置いて自動車の椅子に座った。
左足を右足の太ももの上に置いて足の裏を見てみると皮がめくれて血が出ていた。右足の裏も見てみたが同じことになっていた。
これは痛いはずだ。
あたしはやっぱりキヨのことが気になっていて、心の奥底がずっしりと重くて苦しかった。
龍之介があたしを心配そうに覗き込んだ。
「元気ないけどどうかした?」
あたしは龍之介と目を合わせたまま考えた。
お金をこれ以上借りる訳にはいかないが、あたし1人では何も思い浮かばないしどうしようもない。龍之介に相談してみようか。
「実は助けたい人が居るのだが……」