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賢吉の愛しのタマ・1

 一瞬場が静まり返った。


 俺は胸を撫で下ろした。


 なんだ。龍之介の妄想か。驚かせやがって。


 俺はタマに問いかけた。


「タマはどうしたいんだ?」


 もし龍之介のところへ行きたいと言っても女中の年季などを理由に行かせるつもりはないが、タマの気持ちは聞いておきたい。


 タマは真顔で答えた。


「あたしは年季があるので松尾邸に戻って女中をやる。そのあと龍之介に千円の借金があるのであたしの家族を養いながら借金を返す方法を考える」


 涙目になっている龍之介が切羽詰まった声を出した。


「千円は返さなくていいよ。金なんてどうでもいい。ただ年季が明けたらでいいから僕はタマと一緒に暮らしたい。タマが家族も一緒がいいと言うなら連れて来ればいいよ。だから一緒に暮らそう?不自由はさせないよ。タマ」


 俺は龍之介に苛つきながら言った。


「ちょっと待て!!それは俺がタマに先約していることだ!!千円は俺が龍之介に返してやる!!だからタマ。松尾邸の年季が終わったら今朝話した通り、俺の建てた家でタマの家族と俺の4人で暮らそう!!全てタマの望む通りの暮らしを補償する!!!」


 兄さんが興奮しながら話に割って入って来た。


「さっきから黙って聞いてたら2人共タマと暮らしたいだと……!!?そんなこと言ったら俺だって家を出てタマと暮らしたいし結婚したい!!!だが俺には松尾家の長男という重圧があるしタマも結婚自体する気が無いと言うから諦めようとしてたんだ!!!だがそもそも松尾家は男が3人居るから別に俺じゃなくても跡継ぎは居るんだ!!!だったら俺も家を出てタマと結婚したい!!!タマの家族だって一緒に住めばいい!!!毎日好きな菓子が食い放題だ!!!」


 続けて栄吉が必死な口調で叫んだ。


「3人共タマと結婚したいだなんて嘘だろ!!?僕だってタマと結婚したいんだ!!!タマは結婚しないと言い切っているが僕はずっとタマを振り向かせようと行動してきた!!!だから邪魔する奴はたとえ兄さんたちでも容赦しない!!!」


 俺たちのやり取りを聞いていたタマは目を見開いて呆然としていた。衝撃を受け、戸惑い困っているような表情だった。


 それを見た俺はハッとした。


 今はまだ告白してもいい段階ではない。俺は『結婚したい』とは言ってないが、この流れだと俺もタマと結婚したいと言っていることになる。


 このままではタマにこの場で振られて終わってしまう。


 俺はタマに視線を向けながら笑顔をつくり、勤めて余裕のある声を出した。


「タマ、今のは全部冗談だ」


 タマは呆然としたままつぶやくように言った。


「冗談……?」


「そう、冗談だ」


 タマの頬が緩み、安心したような表情になった。


「なんだ!!冗談か!!驚いてしまったではないか!!」


 そう言って笑うタマに俺の心は痛みを覚えていた。痛みを覚えていたが、勤めて笑顔を作っていた。


 龍之介、兄さん、栄吉もタマの気持ちを察したのか、皆、静まり返りタマを見つめながら、ただ苦笑いをしていた。


 そのときタマの腹の虫が悲痛な音を上げた。


 俺たち4人は一斉にタマを飯に誘った。


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