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龍之介の孤独・2

 もうろうとしている僕に女の子が言った。


「おまえは龍之介だな!!?大丈夫だ!!おまえは結核などではない!!それにたとえおまえが結核だとしても、おまえを助けずに生きるくらいならおまえを助けて死んだほうが後味がいいというものだ!!あたしは何がどうあれおまえを助ける!!!」


 目を開けて見ると、天女のように綺麗な顔をした女の子だった。


 天女様……?

 天女様が助けに来てくれたのか……?


 僕をおぶって走り出す天女様に僕の涙は止まらなかった。


 僕はあのまま死ぬはずだった。


 誰も助けてくれないと諦めていた。


 みんな僕のことなんてどうでもいいはずなのに、天女様は醜くなった僕を怖がらずにおぶり、僕を助けるために走っている。


 僕はまだ生きてもいいのだろうか?


 こんなに優しくしてくれる人がいるのなら僕はまだ生きたい。


 天女様の背中は温かかった。温かくて柔らかくて、土とお日様の心地のいい匂いがした。


 そう、天女様は天女様だけど、この感覚は人間の女の子だ。人に触れたのは何年ぶりだろうか?



 遠い意識の向こうで天女様と男の人の話し声が聞こえた。


「男の子が死にそうなんだ!!!門を通してくれ!!!」


「いや、奥様か旦那様の許可なく勤務時間中に使用人を外に出す訳にはいかんのだよ」


「人の命より大事な規則などないだろ!!!頼むから早く通してくれ!!!」


 天女様が足踏みをしながら話しているのが分かった。

 そのとき別の男の人の声がした。


「通してやりませんか?もし何かあったときは私が責任を取ります」


 穏やかで低くて優しいその声に僕はうっすらと目を開けた。

 背が高くて強そうな色黒の男の人だった。


 もう1人の背が低い男の人が嫌そうな声を出した。


「いや、しかし……」


「もしここで通さなかったがためにこの子どもが死んだら私たちが殺したことになります。それでもいいのですか?」


「……いや、それは……。……分かった。ただし本当に責任はおまえ持ちだからな!!」


「ありがとう!!!恩に着る!!!」


 天女様は大声でそう言うなりすぐさま走り始めた。


 走る振動で揺れる僕に天女様が大声で話しかけた。


「もう少しだ!!!頑張ってくれ!!!純平先生は名医だからきっとおまえのことも治してくれる!!!」


 天女様は息を切らせながらも必死になって僕に声をかけ続けた。


「苦しいのは今だけだ!!!おまえもすぐに元気になって他の子どもたちと同じように遊べるようになるからな!!!」


「頑張れ!!!」


「頑張れ!!!」


「頑張ってくれ!!!]


[あともう少しだ!!!」


 絶え間なく声をかけ続けてくれている。


 声を出す力すら残っていない僕は返事は出来なかったけど、優しくされればされるほど胸がキュッとなって大粒の涙が絶え間なく流れ落ちた。


 僕の声は出なかったけど口をわずかに動かして言った。


「ありがとう」と。


 優しさが、ぬくもりがうれしくて、身体は苦しいけど心の奥からジンジンとした温かいものが湧き上がってきて、それと同時に生きる気力も戻っていた。


 元気になって外で駆け回りたいと思うと同時に、この天女様のお姉さんと一緒にどこまでも続く草原を駆けていく光景が頭に浮かんでいた。



 温かい希望に満たされながら僕の意識はここで途切れた。

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