龍之介の愛しのタマ・1
身請けが済んだ僕はようやくタマを連れて帰れることに安堵と喜びを覚えながら楼主や遊女たちを背にして歩き始めた。
一部始終を見ていた喪拉破さんと目が合うと、喪拉破さんは笑いながら言った。
「なるほど!汚れる前に我が物にしたということか!!まぁ身分はアレだが汚れてないから妾くらいならいいと思うぞ!!」
不愉快になった僕は低い声で「妾になんてしません。先に帰ります」とだけ言い残して喪拉破さんに背を向けて大門の方を見た。
帰りの自動車はどうしようか。
人力車だと伯爵邸までどれだけ時間がかかるだろうか。
交通手段に困っていると、ちょうどタクシーが来て大門前で客を下ろした。僕は大声を出しながら走った。
「すみません!!!今から帰るので乗せてください!!!」
するといきなりタクシーとは別の自動車の警笛が鳴り響き、驚いた僕は思わず立ち止まった。と同時にタクシーの前に赤いキャデラックが走ってきて停車し、タクシーに乗るのを遮られたような形になった。
キャデラックに乗っていた運転手と後部座席の2人の男が車から降りると、運転手だった男が怒ったような口ぶりで僕に言った。
「タマをどこへ連れてく気だ?タマはうちのだ。帰してもらおうか」