龍之介の愛しのタマ・1
タマを抱きしめた僕に遊女たちの悲鳴が上がり複数人の「やめてぇ――!!!」という叫び声が響いた。僕はそれらの声を尻目にタマを更に強く抱きしめた。
子どもの時とは違い、タマの身体は僕よりも小さく華奢になっていた。小さくなったタマを抱きしめながら感極まり、絶え間なく涙が転げ落ちた。
「本当にタマなの……?神戸の父親から亡くなったって聞いてたから……」
タマは両手を僕の胸に押し当てて僕から離れようとしながら戸惑った顔で言った。
「助けてくれてありがとう。恩に着る。だがあなたはどちら様だ?あたしに父親はいない……」
ずっと会っていなかったのだから分からないのは当然だった。それよりも父親がいないというのはどういうことだ……?
「龍之介だよ……父親は居ないって……タマずっと父親がいる神戸に住んでいたよね……?」
そう言った僕にタマは一瞬ポカンとした後、目を輝かせて満面の笑みになった。
「龍之介……!!?龍之介なのか……!!?大きくなったな!!!ずっと会いたかったぞ……!!!」
父親のことを聞かれたことは忘れてしまったのか、それとも耳に入っていなかったのか、それだけ言うと僕の両頬に両手を添えて「元気にしていたか!!?」と涙ぐんだ。
その表情を見た途端、僕は再びタマを抱きしめていた。
父親のことは後で落ち着いてから聞けばいい。それより大事なことはタマが生きていたということだ。
僕はタマを抱きしめながら耳元でささやくように言った。
「帰ろう。やっと一緒に暮らすことが出来る……」
「え……?一緒……?」タマはそう言ってすぐに「いてて……」と身体を強ばらせた。
ハッとした僕はタマを抱きしめていた手をほどいてタマから身体を放した。
「ごめん……!!強く抱きしめすぎた……」
タマは顔を歪ませて両足の外側の側面で立ちながら痛そうな声で言った。
「ちがう……裸足で思いっきり走ったから足の裏がヒリヒリするのだ……」
僕は咄嗟にタマの膝裏と背中を腕で支える格好で抱き上げた。
と同時に遊女たちの悲鳴が大きくなった。
僕は気にせずタマに言った。
「帰ったら手当しよう」
「お……おお……なんだか恥ずかしいな……」
そう言うタマの頬は赤く染まっていた。