龍之介の愛しのタマ・1
吉原で自動車を降りた僕はすぐさま帰ろうと思い、喪拉破さんに一礼した。
「すみません、やはり帰ります」
すると喪拉破さんは僕の肩を掴んで笑顔で言った。
「怖がる必要はない。男は女と違ってただ気持ちいいだけだ。痛みも無ければ妊娠することも無い。1度味わえばやみつきになる」
なに言ってんだ?この人!?
僕は軽蔑しながら喪拉破さんの手を振り払おうとした。
「すみません、帰りたいので」
そのとき複数の女性たちの大きな悲鳴が耳に飛び込んで来た。
「龍之介さまよ!!!」
「ウソ!!?」
「ほら!!!あたし龍之介さまの写真買ったんだから!!!小説通りの美男子よ!!!」
「その写真あたしも持ってる!!!」
「龍之介さまぁぁぁ!!!」
声のするほうへ視線を向けると、顔をおしろいで白くさせて綺麗に着飾った遊女たちがこちらへ駈け寄って来ていた。
「龍之介さまは走るおなごが好きなのよ!!!」
「この中で1番足が早い者が龍之介さまのお相手よ!!!」
「龍之介さまはあたしのもんだ!!!」
僕は咄嗟に逃げようとしたが、喪拉破さんがニヤニヤしながら「ほら、選び放題だぞ」と面白がって僕の肩を掴んでいる手に力を込めた。
「は……放してください……!!!」
そのとき遊女たちを追い抜いて走り来る、おしろいを塗っていない女性が沢山の男達に追われていた。
その女性は顔面を蒼白にさせて「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」と叫びながら走っていた。瞬時に彼女の姿が12歳のときのタマと重なって見えた。
僕は思わずつぶやいていた。
「タマ……」