女郎のタマ
「あの人がキヨのいい人なのか?」
「ああ、そうだ。身請けの金を貯めてるから、しま屋に来ることは出来ないが、ああやって毎日仕事帰りに顔を見せに来てくれるんだ」
「キヨも誘拐されてここに来たのか?」
「あたしは父親が犯した悪行の尻拭いだよ。父親がここしま屋の生娘に手を出しちまって、金が払えないから生娘だったあたしを売ったのさ。祝言を挙げる前日にね。もう5年も前の話だよ」
ろくでもない親父だなと思ったが、キヨのお父ちゃんのことなので悪口を言うのは我慢した。
「5年も居るのに借金は返せないのか?」
「多分一生返せないだろうね。だから本当なら亀太郎には『もう来るな』ってひとこと言ってやるべきなんだろうけど、どうしても出来ないんだ」
キヨの顔はおしろいをしているのに赤くなっていて目には涙が溜まっていた。
あたしもなんだか鼻がツーンとして目が熱くなって涙が溜まっていた。
キヨの声が泣き声に変わりだした。
「このままじゃあたしだけじゃなく亀太郎も一生貯まることの無い身請け金のために働いて誰とも結婚出来ずに年老いちまう。分かってるのにあたしの唯一の生きがいが亀太郎の顔が見られるこの時間だから突き放すことが出来ないんだ……亀太郎と一緒になりたかった……」
キヨの目からは一粒の大きな涙が転がり落ちた。と同時にキヨはあたしから顔をそらしてあっちへ向いた。あたしは心がキュッとなって苦しくなった。
そのとき廊下からドカドカとした足音がしてこっちへ近づいてきた。
ふすまがスパンッと開くと、背が低くて四角い顔をした丸い身体の頭が薄いおじさんの姿が現れた。
涙をぬぐったキヨがあたしにの耳元でささやいた。
「あのハゲがここの親玉だよ」