女郎のタマ
「まぁ、こんな場所嫌だよね。あたしも未だに『もしここに売られてなかったら』なんて考えちまうからね」
遠い目をしながらどこか諦めたような笑顔を見せるお姉さんにあたしは聞いた。
「お姉さんも売られて来たのか?」
「キヨ。あたしの名前」
「分かった、キヨだな!あたしはタマだ!」
「タマはいくつだい?」
「25だ!」
「あたしと同じじゃないか。夫や子どもが知ったら心配するんじゃないかい?」
「あたしは行き行かないだ。結婚はしない」
「あんたも未婚なのかい?あたしも行き遅れだよ。まぁ、ここにいたら行き遅れも何もないけどね……。好きな男はいないのかい?」
「居るが奥さんがいるのでもう好きじゃない」
「ああ……それは辛いね……。あたしも好きな男が居て、ここに売られることが無ければ結婚してたはずなんだ……今でもその人あたしを身請けするお金を貯めて迎えに来るって頑張ってくれてるみたいでさ……そんな金一生かけても用意できないくせにさ……」
そう言いながら開けっぱなしの窓から外の下を見つめているので、あたしも布団から出て四つん這いで犬みたいに歩いてキヨの隣で両膝立ちをして窓から下を見た。
そこには女の人くらいの身長の、力が抜けたようなやさしそうな顔をした細身の男がキヨさんを見つめながら立っていた。