女中のタマ・1
ヨネとヤエからホウキや雑巾を受け取ったあたしは、水がなみなみ入った桶を1つ持ったまま走った。
桶から水があちこちにこぼれてあたしの足はベタベタになった。それでも走った。
屋敷の裏庭の隅にある、大きな木に囲まれた離れの家は、松尾家のご先祖様が妾を住ませるために建てた家だと聞く。
古びて黒くなり湿気を吸っている木で出来た離れの小さな家まで走ると、玄関の引き戸をスパ――ンッと開けた。
「たのもぉ――――!!!掃除をしに参った!!!」
離れの家は大きな木のせいで外も中も昼だというのに薄暗くて寂れている。
引き戸を開けた途端、埃があたしの口と鼻から入ってきてケホケホと咳をした。
薄暗い廊下と階段をよく見ると、埃で真っ白になっている。
「なんだこれは!!?どれだけ掃除をしてないのだ!!?」
そのとき部屋の中からケホケホと小さな咳が聞こえた。
あたしは埃まみれの廊下に濡れた足を踏み入れた。歩く度に濡れた足の裏には埃がくっ付いていく。ふむ。歩くだけで掃除になる。
ケホケホと咳の声がするふすまをスパ――ンッと開けた。
その部屋も廊下と同じくらい埃っぽくてあたしもケホケホとしながらすり切れた畳の部屋に入った。
布団の中にいる男の子は痩せ細っていて、あたしよりだいぶ年下に見えた。なんだかグッタリとしている。
「大丈夫か!!?」
痩せ細った男の子は全身に赤いブツブツがあり、腫れていた。よほど苦しいのだろう、涙を流している。僅かに口を動かして消えてしまいそうなか細い声を出した。
「……僕に触るとあなたも死ぬ……」
「なにを言っているのだ!!?」
「……僕……結核だから……」
いねさんとすえさんが話していたことを思い出した。
「おまえは龍之介だな!!?大丈夫だ!!おまえは結核などではない!!それにたとえおまえが結核だとしても、おまえを助けずに生きるくらいならおまえを助けて死んだほうが後味がいいというものだ!!あたしは何がどうあれおまえを助ける!!!」
あたしはたすき掛けしてる紐を取ると、龍之介を背中におぶり、たすき掛けの紐で龍之介を背中に固定し、家を飛び出し、走り始めていた。
「舌を噛まぬように歯を食いしばっていろ!!!今すぐ腕の良いお医者先生のところに連れて行ってやる!!!」