龍之介の憂鬱
僕は仕事での付き合いというのがどうも苦手だ。
「龍之介くんも女遊びの1つや2つ覚えた方がいいぞ!今日は私が吉原に連れて行ってやる!」
お祖父様の友人で取引先の喪拉破さんの自動車に乗っていた僕は、運転手が行き先の進路変更をしたことに焦りながら両手を胸の前で小刻みに何度も振り、大声で言った。
「けっ結構です……!!!」
「いつまでも死んだ女に未練タラタラなんて男らしくないぞ!男子たるものいろんな女を抱きつくし、妻を娶り、妾を買い、男児を産ませて一族を繁栄させてこそだぞ!」
「い……いや……僕は本当にそういったことは……」
「いいから私に任せなさい!吉原で龍之介くんに合った遊女を紹介してやるから!!」
喪拉破さんはお祖父様と同じ伯爵の身分だということもあり、僕に対してはいつも強引だ。
そもそも仕事と遊郭は関係ないのではないのだろうか。
「龍之介くんは総一郎のおかげで女性に人気だ!あとは意気地を付けるだけだ!!」
「……あの小説は僕を美化しすぎです……僕の好きな人の性格と僕の肩書き以外は作り話でしたし……」
「だが龍之介くんが華族で金持ちで美男子ということは合っている。世の女性の多くはそこに惹かれているのだから難しく考える必要はないと思うがね」
僕が言葉に詰まっていると、喪拉破さんが続けて話した。
「そう、遊女と遊ぶ前にひとつ言っておくが、遊女はたとえ花魁だろうが皆汚れだ。色んな男と交わっている女たちだからな。だから決して惚れることの無いように。妻にすべき女は身分ある処女のみだ。じゃないと私が総一郎に怒られてしまう」
僕はその言葉に言い知れぬ嫌悪感を覚えていた。