タマと3兄弟・1
「ああ。あたしは結婚はしない」
「そうか……。俺は長男な上に歳も歳だしいい加減覚悟を決めなくてはならない……」
諭吉はずっと悲しげに微笑んでいる。悲しげに微笑んだまましばらくあたしを見つめていた。結婚をしなくてもいいあたしが羨ましいのだろうか?
「……せめてタマがずっとここで働いてくれればと思う……」
あたしの頭を優しい手つきで撫でると「また来る」と言い残して去って行った。
長男だから結婚をせねばならんことに落ち込んでいるのか。ヨネも諭吉も結婚のことで悩んでいるのだな。
元気の無い諭吉の背中を見送って台所に入ろうと身体の向きを変えたとき、あたしの背後に誰かが立っていたことに気付いて驚いて「わぁ!」と思わず声を上げたと同時に団子を皿ごと落としそうになった。
落としそうになった皿を素早く支えてくれたあたしの背後に立っていた人は賢吉だった。
「おお!ありがとう!団子食べるか!?」
諭吉は団子は女中の人数分だと言っていたからあたしの分を賢吉にあげればちゃんと足りる。
しかし賢吉は「いや、いい」と言ってすぐに台所に半分身体を入れると大声を出した。
「お疲れ――!!諭吉兄さんから団子の差し入れだ!!一服してくれ!!」
賢吉の声に皆振り向き、笑顔になってザワついた。
「団子だって!」
「おいしそう!」
「ありがとうございます!」
続けてあたしに「タマも早く1つ取れ」と言うので1つ串の部分を持つと、皿を後輩女中のサワに預けて近くに居る女中たちに言った。
「タマをちょっと借りてくよ」