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タマと3兄弟・1

 女中の休みは盆と正月しかない。


 なので他の日はせっせとひたすら働くのだ。


 いつもは洗濯をして食事をつくって掃除をして当番の人が買い出しに行く。たまに草むしりなどもある。


 桜の花びらが舞い、蝶がテフテフと飛ぶ空の下、あたしは今日もせっせとひたすら働いていた。


 井戸から水を汲んで2つの桶になみなみ入れて両手に1つずつの桶を持ち上げたとき、左の桶が急に軽くなった。


 見ると栄吉が左の桶をあたしと一緒に持っていた。


 栄吉はほっぺがいつも赤くて少し息も荒い。そしてことあるごとに小さく咳払いをして強ばった顔をする。最初は熱があるのかと思ったけど熱は無くて健康だ。


 今日もほっぺを赤くさせて息を少し荒げながら、小さく1度咳払いをした後話しかけてきた。


「重くて大変だろ?僕の方が男で力があるから2つ共持ってやるよ」


「おお!!ありがとう!!!」


 あたしは栄吉に2つの桶を渡すと、井戸に戻って更に2つの桶を並べて水をなみなみ一杯に汲んで持ち上げた。


「栄吉とあたしで手が4つあるから4つ運べる!!ありがとう!!!」


「…………」


 栄吉は何故か無言になった。



 桶を台所に運んだ後、ヨネと一緒にジャガイモをワシャワシャと洗ってから皮むきをした。


 ヨネはクルクルとジャガイモの皮むきをしながらため息をついて言った。


「女中になるとさ、そこの主が縁談を持って来てくれることもあるらしいけど、ここは全く無いよね。実家もあたしの嫁ぎ先を探してくれてるみたいだけどさ、25の行き遅れは難しいみたいでさ」


 ヨネはここ数年いつも結婚の話ばかりしている。


 よく分からんがヨネにとっては深刻なことなのだろう。


 そのとき台所の入り口から新米女中のおツルちゃんが大声を出した。


「タマさん!諭吉坊ちゃんがお呼びです!」


「お?」


 あたしはヨネに「ちょっと行って来る」と断りを入れて台所の入り口まで小走りをした。


 台所の前の廊下に立っている諭吉は頭を掻きながら「もう30だし坊ちゃんって歳でもないんだけどな」と苦笑いをすると、手に持っている皿に山盛り乗ったみたらし団子を皿ごとあたしに差し出した。


「タマが好きだと言っていた山田屋って団子屋の近くを通ったから買ってきた。女中全員分ある。みんなで食ってくれ」


「おお!!!ありがとう!!!」


 感激しながら団子が乗った皿を両手で受け取ると、諭吉は灰色の背広の内ポケットから小さな白い花の飾りが3つ付いた物を取り出した。


「これは外国から輸入されたばかりの髪飾りだそうだ。タマに似合うと思って買ってきた」


 そう言うとあたしの前髪の端っこの髪を小さな髪飾りですくって挟んで固定させた。


「やっぱり似合うな」


 そう言って少し悲しげに微笑んであたしを見つめた後、「タマは結婚しないのか?」といつもより元気の無い声で聞いてきた。



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