女中のタマ・1
あたしは桶を持って井戸まで走った。
なぜ走るのかって?分からない。分からないがあたしはいつもなるべく極力走っているのだ!!
井戸に着いたあたしは井戸の横に置いてある空の桶が5つあるのを確認すると、持って来た桶の横にもうひとつ桶を並べて2つに水を入れた。
なぜ2つに増やしたかって?それは手が2つあるからだ!!
そのとき井戸のすぐ側にある納屋のほうから女の子たちの声がした。あたしは水がなみなみ入った桶を両手に持って納屋に近づいた。水が揺れてこぼれて草履の上から足にかかった。
「だからおまえが離れの家の世話係をやれって言ってんだよ!!」
納屋の裏側であたしと同じ歳のヨネとヤエとタカが1つ年下のおキクちゃんを囲んでなにやら詰め寄っている。
「で……でも……は……離れは……結核で化け物の坊ちゃんがいるって……あ……あたし……まだ死にたくない……」
「は!?じゃぁ、あたしたちが化け物に食われたり結核に伝染って死んでもいいってことかよ!!?」
「ち……ちが……」
「違うならおまえが行けって!!」
「で……でも……」
おキクちゃんは今にも泣き出しそうになっていた。
そうか。これは3人で寄ってたかって苛めているのだな。
あたしは桶を持ったまま納屋の陰から飛びだした。
「やめろ!!!自分より弱いと分かっている者を寄ってたかって苛めて恥ずかしくないのか!!?」
つり目で細長い身体のヨネがホウキとちり取りを持った格好で言った。
「え!?苛められてるのあたし達の方なんだけど!?」
あたしはちょっと混乱しながら答えた。
「……そうなのか……?」
ふくよかで鼻が上に上がっているヤエが雑巾を右手に持った格好で言った。
「だってコイツあたし等に死ねって言ってくるんだぜ?」
あたしはおかっぱ頭で小柄なおキクちゃんを見つめた。
「そうなのか?」
「ち……ちがう……!!!わたしはただ、離れの家に行くのは怖いって……」
「離れの家にみんな行きたくないから喧嘩をしていたってことなのか……!?」
あたしの問いかけにそばかすのあるタカが「そうだ!!」と威張りながら答えた。
「そうか。ならあたしがその離れに行ってやる!!その代わりにこの桶を書斎まで運んでくれ!!」
あたしが右手に持っている桶をタカに渡すと、タカは桶の重さにバランスを崩していた。