愼志朗の罪と罰・3
若君こと若様が一人目の縁談を断った日の夕方、俺は旦那様に書斎へ呼び出されていた。
書斎の窓際に立った旦那様は夕陽を浴びて外に視線を向けながら話した。
「龍之介には何としても身分相応の令嬢と身を固めてもらい、伯爵家の更なる跡取りを作ってもらわねば困る。本来なら縁談は強引に推し進めるつもりだったが伯爵家の跡取りをやめると言われてはどうしようもない」
黙って聞く俺に旦那様は振り向いて目を合わせた。
「そこで龍之介の好みに合った婚約者が現れるように策を講じようと思う」
「策……ですか……?」
「まず第一に我が伯爵家には財力がある。そして龍之介は大学を首席で卒業した優秀な子であり、見目もいい。結婚したい女は山ほどいるはずだ。それは身分の高い娘たちも例外ではないはず」
俺は黙って聞いた。旦那様はゆっくりと歩きながら続けた。
「だからと言ってそれなりに身分のある令嬢に対し、こちらから龍之介に好かれる演技をしろとは言えない。だから自ら龍之介に好かれる演技をするように仕向けるのだよ」
立ち止まって俺と再び目を合わせながら言う旦那様に俺は戸惑いながら問いかけた。
「そんなことが……」
「今流行の作家に龍之介の小説を書いてもらうよう依頼した。もちろんほぼフィクションになる訳だが、龍之介の魅力を存分に書いて貰い、同時に龍之介の好みの女性象を具体的に書いてもらう。そうすることで龍之介と結婚したいと思う令嬢は自らそう演じるようになるだろう」
旦那様は不敵な笑みを漏らしながら喋っていた。
「そのためには龍之介が惚れたという女中の情報が必要になる。愼志朗はその女中を見たことがあるのだろ?龍之介からも女中のどこが好きだったのかを聞き出し、それを作家に伝えてもらいたい」
また難しいことをサラッとおっしゃる。若様は『タマちゃんが死んだ』という嘘のせいで傷心中であり、安易に聞けるような話題ではない。
だが断るという選択肢は俺にはなかった。
背筋を正し「かしこまりました」と一礼をした。
その後、若様からタマちゃんの好きだったところを聞き出した俺は作家先生と会い、若様の話していたことに加えて俺が知っているタマちゃんのことを話した。
作家先生はメモを取りながら興奮気味に「面白いのが書けそうだ」と言い、1ヶ月で原稿を書き上げて出版されると、それは瞬く間に流行の小説となった。
旦那様の思惑通りにタマちゃんの真似をした令嬢が続出し、彼女たちと若様は見合いをしたが、残念ながら真似は所詮真似であり若様の心を掴む見合い相手は現れず、若様はどの令嬢からの縁談も断り続けていた。




