愼志朗の罪と罰・2
目がつり上がった細身の女中がタマちゃんの肩に腕を回して言った。
「いいかい?タマ!!この贈り物は絶対誰にもあげちゃダメだからな!!」
タマちゃんは目を丸くさせ、呆然としたまま「お……おお……」と答えていた。
俺は3人の女中が言ってくれたことでスッキリとした気分になっていた。
一喝された2人は「なんだよ?あたし等のが年上なのに何でおまえら偉そうなんだよ?」「そんなに言わなくてもいいじゃないか」などと言いながらばつが悪そうに食事をしに戻って行った。
タマちゃんは大量の贈り物を見つめながら「お返し出来る物がない」とつぶやき、草履を脱いで廊下を走って突き当たりにある女中の部屋に飛び込んでいった。
思わず俺は叫んだ。
「お返しなんて要らないから!!」
若君と俺は他人で、町で偶然会って頼まれて届けに来ただけだと言ったはずだがタマちゃんはそれをすっかり忘れているようだった。
タマちゃんは大きな四角い缶――おそらく松尾家の菓子の空箱でゴミになった物を私物にした物――を持って来ると廊下に置いて開けた。
中にはラムネの瓶の中から取り出した歪な形のビー玉やおはじき、綺麗な柄ではあるが小さすぎて使い道のない布きれの数々、綺麗な和紙で折った鶴、押し花で作ったしおりなどが入っている。
それをあさりながら「ない」「ない」とつぶやいていたかと思うといきなり「あ!!!」と大声を出した後、自身の着物の懐から小さな丸い筒を取り出して俺に差し出した。
「あたしの宝物の百色眼鏡だ!!!これを龍之介に渡してくれ!!!」
それは貧しいタマちゃんにとっては本当に宝物なのだろうというのが分かりすぎる品物だった。
「貰えないよ。宝物なんでしょ?」
タマちゃんは目をキラキラと輝かせながら笑顔で答えた。
「宝物だからあげるんだ!!!龍之介によろしく伝えてくれ!!!」
その笑顔を見た瞬間、若君がタマちゃんに惚れた理由が分かったような気がした。
俺は百色眼鏡を受け取った。
「分かった。必ず届ける」
けれども俺は百色眼鏡をすぐに若君には届けなかった。
タマちゃんには悪いと思ったが、時期が来てからにしようと考えたからだ。




