愼志朗の罪と罰・2
タマちゃんは目を丸くさせて再び大声を出した。
「門番のお兄さん!!!」
「タマちゃん、久しぶりだね。実は龍之介くんからの預かり物を届けに来たんだ」
タマちゃんの目は更に丸くなった。
「龍之介!!?龍之介と会ったのか!!?龍之介は元気なのか!!?龍之介はどこにいるのだ!!?」
俺はあらかじめ用意してきた嘘を付いた。
「町で偶然会っただけだから俺も龍之介くんについて詳しいことは知らないが、お金持ちの家で大事にされているみたいだったよ」
タマちゃんの目が少し潤んだのが分かった。潤んだ目で満面の笑顔になった。
「そうか!!!龍之介は幸せに暮らしているのだな!!!」
「龍之介くん、タマちゃんに別れの挨拶が出来なかったことが気になっていたみたいだったよ。タマちゃんのおかげで元気になれたのだからお礼がしたいって言ってて、たくさん贈り物を預かったんだけど、受け取ってくれるかな?」
「贈り物?」
「中に入ってもいいかな?」
「おお!!そうだな!!」
タマちゃんはそう言いながら俺を台所へと入れた。女中たちは昼食を取っていて俺を見るなり口々に騒ぎ出した。
「タマのいい人かい!!?」
「バカ、年上過ぎるだろ!」
「昔門番をしてた人じゃないか?」
俺は女中たちに会釈した。
「食事中に邪魔してすまない。ちょっとタマちゃんに届け物があって来た」
続けてタマちゃんに聞いた。
「荷物広げられる場所ある?」
そう聞きながら振り向くとタマちゃんはいつの間にか竈のほうへ行っていて、茶碗にご飯をよそっていた。
「お兄さんも食べてくだろ!!?おかずはあたしのと半分こな!!」
「いや……ありがとう……でも今はお腹いっぱいだから……それより荷物広げられる場所はないかな?」
「荷物を広げられる場所か!!?」
そう言いながらこちらへ戻って来たタマちゃんはキョロキョロした後、廊下に上がる引き戸を開けて廊下をポンポンと叩いた。
「ここでいいか!?」
台所の地面はコンクリートで出来ていて土足だが、廊下は草履を脱いで上がるので荷物を広げても汚れない。
俺は風呂敷を背中から下ろすと廊下に贈り物の数々を広げた。
着物と帯がそれぞれ10枚ずつ、下駄が10足、簪が100本、ハンカチーフが100枚。高級手鏡等その他諸々。
当初若君は着物や帯も100枚選ぼうとしていたが、置く場所を取り過ぎて逆にタマちゃんに迷惑になるからと諭した。
すると今度は指輪やネックレスを買おうとしたので、タマちゃんも若君もまだ子どもでアクセサリーは早すぎるから大人になってから贈るようにと言って止めた。
その代わりに選んだのが高級手鏡、高級クシに海外から輸入されたオルゴールや高級手鞠、貝殻で装飾された綺麗な小物入れ、綺麗な和紙の折り紙等々だった。