愼志朗の罪と罰・2
それは旦那様が朝から留守の日に実行した。
あとは女中や下男の目が気になるところで、旅にでも出るのかと思うほどの巨大な風呂敷に包んだ大きなその荷物を背負う俺に、案の定何人かが「その荷物は何ですか?」と聞いてきたが、「要らない物を知人にあげに行く」などと適当に誤魔化した。
乗合馬車と徒歩で松尾家に着いたのは昼ごろだった。
松尾家の大きな屋敷を囲う大きな壁沿いを歩き、角を曲がって門が見えてくるとその前に立っている門番の元先輩である畑さんが大きなアクビをしていた。
俺は笑顔で話しかけた。
「お久しぶりです。女中のタマちゃんに会いたいのですが」
背が低い畑さんは俺を見上げるなり小さな目を最大限に大きくさせた。
「愼志朗か!!?久しぶりだな!!いきなり辞めたから驚いたぞ!!まぁ門番は大変な仕事だからな!!嫌になったのも分かる!!俺もこの仕事を始めて5年になるが――……」
武勇伝が始まった。長くなりそうだったので俺は畑さんの話を遮って再度要件を伝えた。
「あの、女中のタマちゃんに会いたいのですが」
畑さんは話を中断させると「ん?」とショボショボとまばたきをさせた。
「ああ、あのいつも走っているお嬢ちゃんか。あんなのに一体何の用だ?まぁ身元は分かっているし入ってもいいだろう」
そう言うと大きな木製の門を引いて開けた。ギギギギギと蝶つがいが重苦しい悲鳴を上げる。
門の隅に立っている、面識の無いもう一人の門番に会釈をした後、門をくぐり、女中たちの部屋や休憩所などがある別邸へと歩を進めた。
洗濯物が干してある別邸の裏庭から勝手口のドアの前に立ち、コンコンと2度ノックした。
「は――い!!」
元気な声で返事が帰って来た。それは聞き覚えのある声で、今まさに訪ねようとしているタマちゃんだった。
タマちゃんは勢いよくドアを押し開けて出て来て、ドアは俺の顔面にぶつかった。
痛みに声すら出すことが出来ずぶつけた顔面を右手で覆っていると、タマちゃんが「おお!!!大丈夫か!!?いきなり開けてすまなかった!!!」と大声を出した。
顔面から右手をどけて目を開けると、心配そうに俺を見上げるタマちゃんの姿があった。たった半年ほどしか経ってないのに、大人に近づいていて以前よりも綺麗になっていた。