龍之介の絶望と希望・1
愼志朗さんはさっきよりも優しい声で言った。
「伯爵家の跡取りになればタマさんに何でも与えることが出来るようになります。1年あれば身体を鍛えてタマさんを守れる身体にもなれます。これからの1年はタマさんに会うための準備期間だと考えてはどうですか?」
僕の頭には病院の先生の言葉が過ぎっていた。
『松尾家の次男が毎日タマちゃんを送迎してくれているから』
どうしようもない不安にかられてモヤモヤとした。
「……2番目のお兄ちゃんとタマの仲がいいみたいで……僕はすぐにでもタマに会わないと不安なんです……」
愼志朗さんは一瞬戸惑った顔をしたけど、すぐに優しい笑顔に戻った。
「以前私が松尾邸で働いていたことは知っていますね?」
「はい……」
「仲良くなった女中がいます。彼女はタマさんとも仲がよくていろんな話をするそうなのですが、タマさんは松尾家の兄弟の誰にも特別な感情は持っていないと聞いたことがあります。もし心配なら彼女にタマさんを見張らせますが」
タマを見張る……?
そんなことはしたくなかった。したくなかったけど、タマを誰にも取られたくなくて言葉を詰まらせていた。
……タマを見張るなんてしなくても心さえつながることが出来れば僕はきっと安心できる気がする……
「……タマに手紙を書きたいです……」
愼志朗さんは少しだけ間を置いてから「分かりました」と笑顔で頷いた。