諭吉のつぶやき
「女中は全員で10人いる。これは全部で132粒ある。みんなに分けてお母ちゃんとお祖母ちゃんにも持っていって純平先生とおばちゃんと奥さんと龍之介が起きたときと門番の背が高いお兄さんと諭吉と賢吉と栄吉で1人5粒ずつで9粒あまる。誰が食べるかはジャンケンだな」
俺の胸の中でキュンという音がした。
なんて可愛いんだ。
その金平糖はおまえがもらったものだからおまえ1人で食えばいいものを。しかも俺たち兄弟まで数に入っている。俺たちは金平糖をジャンケンで奪い合う必要などない。そもそも分けてもらう必要もない。
そう思っているとタマは俺に和紙に乗った金平糖を差し出した。
「これを買った諭吉が1番最初だ!!どれでも好きな色が選び放題だ!!」
目を輝かせて笑顔で言うタマに俺の胸の中でキュンの嵐が巻き起こった。
なんて可愛いんだ!!!
計算が間違っていることも含めて全てが可愛いじゃないか!!!
その日から俺は学校帰りにタマにやる菓子を買うのが習慣になった。
そしてそれとは別に、龍之介が入院している病院へ行き、そこの医者に会った。入院費を払おうと思い金額を聞くと、医者は穏やかな笑顔で答えた。
「入院費なら龍之介くんのお祖父さんから受け取っているよ」
「え?」
「母方のお祖父さんだそうで、ここを退院したら一緒に暮らしたいとも言っている」
俺は驚いていた。
他に身内が居たなら家になんて来る必要無かったじゃないか。その方が龍之介だって幸せだっただろうに。
俺も母さんや父さん同様に妾の子である龍之介を疎ましく思っていたのは事実だが、憎んでいた訳では無い。松尾家と関係の無い場所へ行くなら幸せになればいいと思っている。
龍之介に祖父が居たことを俺からタマに伝えることは無かった。
医療費を出せと言った手前、陰で払おうとしていたことを知られるのが嫌だという意地があったのだ。
それにタマが夜食を作るのをやめれば毎晩菓子をやったり喋ったりする時間が無くなってしまう。それは淋しかった。
いつの日かタマは俺にとって誰よりも大切な存在になっていった。
それは最初は妹に対するような感情だったのがタマが成長するにつれ、1人の女として愛おしく想うようになり、やがて生涯を共にしたいと考えるまでに至るようになる。