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諭吉のつぶやき

 この世は嘘でまみれている。

 それを悪いとは思わない。


 俺自身も嘘にまみれているのだから。


 しかしだからと言って正直者が馬鹿を見るのが正しいとは思っていない。むしろ正直者こそが報われるべきだと思っている。


 

 1週間前タマという女中が龍之介が死にそうだと駆け込んできた時は驚いた。


 龍之介が結核だと女中たちが噂し、離れの家に近付きたがらないことを知っていたからだ。その龍之介を自らが町医者へ運んだということは命がけで他人を助けたということになる。


 最初は何か見返りを要求するためにわざわざ茶の間まで来たのかと思った。だからわざと意地悪を言った。


「そんなに龍之介を助けたいならおまえが医療費も住まいも食事も面倒をみてやればいい。それともさっきまでの威勢はただの綺麗事なのか?」


 タマは固まり困った顔をした。


 俺は思った。やはりそうかと。


 金品を要求しに来たのに逆に金が無くなることを要求されて宛てが外れたといったところか。


 しかし次の瞬間、何やら覚悟を決めたような表情になると、腹の底から声を出した。


「分かりました……!!!だったら龍之介は入院してもいいということですね!!?」


 タマの目には力があり、その場しのぎの嘘ではないことが分かった。と同時に俺は鳥肌が立つほど喜びを感じていた。


 こいつは本当に龍之介を助けたいというだけで利益を求めている訳ではない。


 見返りが無いにも関わらず他人の為にここまで出来る人間を17年間生きてきて見たことがなかった。


 だからと言って何故ここまで喜びを感じたのかは分からなかったが、俺の中にあった薄暗くジメッとしたものが明るく照らされたような気がしたのだ。



 それから3日後、タマと打ち解けた俺は、夜食を作って持ってくるタマに問いかけた。


「龍之介はどこに入院しているんだ?」


「純平先生の病院の村井診療所だ!ここから走って10分くらいの場所にある!」


「そうか。仕事と見舞いで大変だろう。これをやる」


 俺は学校の帰りにタマにやるために買った和紙に包んである金平糖を差し出した。


 それを見たタマは目を輝かせた。


「おお!!ありがとう!!」


 大事そうに和紙に包まれた金平糖を両手に乗せて見つめるタマの頬は赤く染まり、心底うれしそうにしている。その様はなんとも可愛いらしかった。


「1、2、3、4、5、、、、」


 タマは金平糖の数をかぞえだした。


 なんだ?まさか足りないからもっとくれとでも言うのか?せっかく可愛かったのに台無しじゃないか。


 しかしタマは意外なことを口にした。



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