龍之介の素性
黄土色の着物姿のお爺さんは白い髭を仙人のように生やしていた。
この人が僕のお祖父ちゃん……?
大きくてしっかりとした体格のその人は眉毛も白くて太くてキリッとした顔をしていてお母さんとは似ていなかった。
お祖父ちゃんはつり目気味で切れ長の目をやさしく細めて僕に話しかけてきた。
「初めまして。美鶴の父親の総一郞です。無事回復して良かった。もっと早く君の居場所を突き止めていられたらこんなことにはならなかったのに」
僕は緊張して何を話せばいいのか分からなくて、お祖父ちゃんを見つめながら会釈をしていた。
お祖父ちゃんは微笑んだまま僕の頭を撫でて続けて話した。
「一緒に帰ろう。医者は我が屋敷にも専属の者がおる。もう2度と不自由な思いはさせんよ」
僕の身体がビクッと揺れた。
え?帰るってこの病院から離れるってこと……?
ここから離れたらタマに会えなくなる……
そう思うだけで絶望に支配されて心が沈んだ。思わず頭を撫でているお祖父ちゃんの手を両手で掴んでどかせていた。
「ぼ……僕……タマと離れたくない……ので……ここにいます……」
お祖父ちゃんは静かに優しい声で問いかけた。
「タマとはさっき見舞いに来ていた子か?」
「はい……」
「龍之介はあの子のことが好きなのか……?」
僕の身体は熱くなった。
なぜ熱くなったのかは分からなかった。
「は……はい……」
「そうか。分かった。ならばその子も明日にでも屋敷に呼び寄せよう。とにかく一刻も早く帰ろうではないか。ここから自動車で1時間あれば着く。すぐそこだ」
「タマも一緒に住めるのですか……?」
「ああ。だから何の心配もせず一緒に帰ろう」
目尻にシワをつくって僕と目を合わせていたお祖父ちゃんが「愼志朗!」とドアのほうに声をかけた。
すると「失礼します」と聞き覚えのある声がして、ドアが開いた。
頭を下げながら入ってきたのは松尾の邸宅で門番をしていた背が高い方の男の人だった。