龍之介の初恋
「大丈夫か!?」
パタパタとスリッパで走る足音がこちらに近づいて来て、僕の肩に大きくて温かな手が触れた。
視界がはっきりしてくると目が細くて眉毛が太い大人の男の人の顔があり、白い服を着ているのでお医者さんだということが分かった。
先生は少しだけ口角を上げるとやさしい口調で言った。
「1週間も眠っていたんだ。無理はしないほうがいい。少しずつ筋肉を鍛えて体力を付けていけば普通に歩けるようになるから」
「夜なのにタマが1人で帰って行ったから……僕が守ってあげないと……」
「それなら心配いらない。松尾家の次男が毎日タマちゃんを送迎してくれているから」
「え……?」
僕は何故か傷ついていた。
タマが安全ならそれでいいはずなのに、なんだかモヤモヤとしたものが僕を支配して、心が痛くて仕方なかった。
「な……なんでお兄ちゃんがタマを送迎しているの……?」
先生は眉頭を上げて微笑んだまま少しの間僕を見つめてから答えた。
「さぁ?どうしてだろうね」
僕は急に不安になった。
これが何の不安なのかは分からないけど、とにかく今すぐにタマのところへ行きたくて仕方なかった。
「タマのところへ行きたい……」
「もう遅いよ。明日また来るから。それより君と話がしたいという人がいるんだが、ここに通してもいいかい?その人も君の様子を毎日見に来ているんだ」
「誰……?」
「君の母方のお祖父さんだ」
「僕のお祖父ちゃん……」
昔お母さんにお祖父ちゃんやお祖母ちゃんに会いたいと言ったことがあったたけど、急に不機嫌になったので、それ以来聞かずにいた。きっと死んでいるのだと思い込んでいた。
僕の心は躍った。
うれしい……!!
僕にお祖父ちゃんがいたなんて……!!!
「会いたい……!!会いたいです……!!!」
そう言った次の瞬間、ドアが開いた。
見ると、白い髭を仙人のように生やしたお爺さんが黄土色の着物姿で部屋に入って来た。