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龍之介の初恋

 僕はずっと夢を見ていた。


 元気になった僕は天女のお姉さんと一緒に食事をしたり追いかけっこをして遊んだりしている。


 けれどもそれが夢だということを僕は分かっていて、目が覚めた時また1人ぼっちだったらどうしようと思いながら目を覚ますと、天女のお姉さんが僕の手を握りながら僕を見ていた。


「おお!!!龍之介が目を覚ました!!!大丈夫か!!?どこか苦しいところはないか!!?」


 僕の目からはうれし涙があふれ出していた。


「どうした!!?どこが痛いんだ!!?今先生を呼んで来るからな!!!」


 ここから去ろうとするお姉さんの手を強く握って引き留めた。お姉さんは驚いた顔で僕に振り向いた。


「行かないで……」


 悲痛な声で訴える僕にお姉さんは身体を僕の方へ向けてベッドの横に置いてある椅子にもう1度座ると、頷きながら微笑んで言った。


「分かった。あたしはここに居る」


 お姉さんは透き通った優しい目をしていて、天女のようなその綺麗な顔をずっと見ていたいと思った。僕はなんだかドキドキとしていた。


「名前……名前は……?」


「ああ、まだ名乗ってなかったな。あたしは女中のタマだ。龍之介はあたしの子どもになった。お母ちゃんと呼んでもいいぞ」


「おか……?子ども……?」


 それは何だか嫌だった。

 僕はお姉さんと対等な男でありたかった。


「……タマさん……ちゃん……タマって呼ぶ……」


「そうか。なんでもいいぞ。あたしはそろそろ夜食を作りに行かねばならん。また明日も来るからな」


 そう言って僕の頭を笑顔で撫でたタマは「先生を呼んで来るからな」と立ち上がった。僕はタマの手を放したくなかったけど、仕事に遅れるとタマが怒られるので渋々手を放した。


 タマが遠ざかっていく足音を聞きながらどうしようも無い淋しさに襲われていた。タマが居なくなった部屋は味気のない空虚な場所でしかなく、そこに1人残された僕は寝たままの格好で部屋を見回した。


 タマが『先生を呼んで来る』と言っていたし、横にも白いベッドがもう1つあるし消毒の匂いがするからここはきっと病院なのだろう。


 僕は電球に照らされている木の天井を見つめていた。


 どこから入ったのか茶色くて身が太くて大きい蛾が電球の近くにへばりついている。


 外からはコロコロロロ……リーンリーン……と風に溶けていきそうなほど透き通ったコオロギや鈴虫の鳴く声が聞こえていた。


 こんな夜にタマは1人で大丈夫なのかな?


 僕はベッドから起き上がろうとした。タマを追いかけて男の僕が守ってあげないと。


 けれども起き上がった途端、目の前がフワッとして体中の力が抜けた。めまいだ。ベッドの上に座ったままうつむいた。体中がジンジンとしびれたような感覚になった。


 そのときドアが開く音がして男の人の声がした。


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