諭吉の愛しのタマ・2
俺は吐息をつきながら急いで止めに入った。
「分かった!!ここは公平にみんなで買おう!!!」
栄吉が不満げに言った。
「こんな安いのみみちく出し合うの!!?」
「馬鹿、値段じゃないんだよ。タマはみんなで仲良く買った物の方が喜ぶんだ」
俺のこの言葉に栄吉は眉を寄せ、賢吉と龍之介は納得したように何度か首を小刻みに縦に振ると、微笑を浮かべて「分かった」「分かりました」と、それぞれの財布から綿菓子の価格の4分の1の金を取り出した。
木の棒に大きく巻かれた綿菓子を店主から受け取った賢吉が、栄吉と龍之介と俺を見回しながら「全員で渡しに行こう」と眉がしらを上げた。
俺たちは綿菓子を持った賢吉を囲んで「俺たち4人から」と声を合わせて言い、賢吉が綿菓子を差し出すと、タマは更に目を輝かせた。
「おおお!!!4人で買ってくれたのか!!!ありがとう!!!雲が棒に巻き付いている!!!これが菓子なのか!!?夢の国の菓子のようだ!!!」
興奮気味にそう言いながら賢吉から綿菓子を受け取るなり、ハッとした表情をして俺たちを見回した。
「みんなは食べないのか?」
「俺たちは腹がいっぱいだから」
賢吉が笑顔でそう答えるとタマは母さんに視線を向けた。
「奥様食べませんか?」
母さんはしばしタマと目を合わせると微笑を浮かべた。
「ありがとう。けれども、わたくしもお腹がいっぱいなのでタマが食べなさい」
タマは目をパチクリとさせて再び俺たちを見回した。
「お腹いっぱいじゃ無い人は居ないのか?一緒に食べよう!!」
そうだ。タマは『自分だけ』というのが好きでは無かった。だからと言ってさすがに俺たち男がタマと同じものに口を付ける訳にはいかない。
そのとき龍之介が優しく諭すように言った。
「僕たちもお腹がいっぱいなんだ。ごめんね。その綿菓子はタマに食べて欲しくて買ったものだからタマに食べてもらえれば僕たちはうれしい。欲しくなったら言うよ」
タマは再び目をパチクリとさせると微笑を浮かべて「分かった!!」と返事をして綿菓子をパクリと一口食べた。「おいしいな!!ふわふわだ!!」と嬉しそうに食べるタマに俺たち5人は和み、表情は緩んでいた。