諭吉の愛しのタマ・2
植木屋の変装をして倉島伯の屋敷に侵入していたとき、母さんも植木屋の変装をして一緒に来ていた。
女性の植木屋は目立つ為、胸にさらしを巻いて帽子の中に髪を入れて男装をした訳だが、「怖い」と言ってはしごに上ることが出来なかった為、俺たちとは離れた場所にある垣根の手入れをする振りをしていた。
なので母さんだけが屋敷でタマと会うことが出来なかった訳だが、タマと龍之介が外出した跡を付けた俺たちは、洋食屋でタマと合流することに成功した。
俺は内心ハラハラとしていた。
龍之介は母さんと会いたくは無いだろうし母さんも未だに龍之介を憎んでいるのではないかと思っていたからだ。
しかし思いのほか母さんは龍之介を憎んではおらず謝ってくれ、龍之介もそれを受け入れてくれた。
だからと言ってすぐに打ち解ける訳では無かったが、ぎこちないなりにも言葉を交わす2人に俺たちは思わず表情を緩めていた。
食事を終え、皆で洋食屋を出て芝居小屋へ向かう途中、ちょっとした人だかりがあり、人々の間からは中年男が綿菓子を作っている様子が見えた。
それをジッと見つめているタマの足が止まり、おのずと俺たちの足も止まった。
タマが目を輝かせながら興奮して言った。
「すごい!!!雲を作っている!!!あのおじさんは雲を作ることが出来るのか!!?」
綿菓子を知らないらしいタマが可愛らしいことを言うので俺たちの顔はほころんでいた。
「あれは綿菓子という菓子だ。買ってきてやるから待っていろ」
俺がそう言い終わるより先に賢吉、龍之介、栄吉が綿菓子屋の前で押し合いをしながら揉めていた。
「俺がタマに買う!!! 」
「いや!!!僕が買う!!!」
「タマに買うのは僕だ!!!」
また始まった。