タマと四兄弟と奥様と
頭を深々を下げる奥様を呆然と見つめていた龍之介はあたしに視線を移した。
「……タマにとってあの人は大事な人なの……?」
「お……?おお……そうだな。今ではすっかり大事な人だ……」
龍之介は奥様に視線を戻した。
「……タマの大事な人は僕も大事にしようと心に決めているので許します。ただひとつ聞かせてください。今更謝ろうと思ったのは僕が華族だと分かったからですか……?」
「いえ……思い出すきっかけとなったのはあなたのお祖父様ですが、あれからわたくしも歳を取り、自身の罪に気付いたからです。夫が妾をつくったことに腹を立てても子どもであるあなたに当たるのは筋違いでした。本当に取り返しのつかないことをしました」
奥様は目を伏せて再び頭を下げた。
龍之介は奥様から視線をそらして一瞬床を見たのち再び奥様を見て言った。
「分かりました。頭を上げてください。ひとつお願いがあるのですが、僕はタマと2人きりで食事をしたいので、ご子息を連れて席を移動してもらってもいいですか?」
「いえ。それは出来ません。わたくしたちもタマと一緒に食事をしたいので」
そう言いながらあたしを見た奥様は「迷惑かしら?」と聞いてきた。
あたしは即答した。
「迷惑じゃありません」
龍之介に視線を移して聞いた。
「あたしも奥様やみんなと食事をしたい。龍之介とみんなで食事をしたい。駄目だろうか?」
龍之介はあたしと目を合わせると吐息をついた。
「タマがそう言うなら仕方ない」
賢吉は笑顔になるとふざけた口調で言った。
「よし!全員分龍之介の奢りな!」
「何でですか!!?」
「仲直り記念だ」
「何ですか!!?それ!!?ていうよりも何であなた達も僕たちとお揃いみたいな色のスーツ着てるんですか!!?」
「ああ?これ?おまえ等が百貨店でお揃いの買ってるの見たから俺たちもお揃いにしたんだ。タマとおまえの2人だけお揃いなんて周りから誤解を招くだろ」
「付けてたんですか!!?」
「抜け駆けなんてさせねーよ。ていうかタマを松尾家に帰せ」
「嫌です!!!」
龍之介は本気で怒っていたが賢吉は何だか楽しそうで、あたしたちは全員ビフテキを頼んで食べた。
食べ終わる頃には龍之介も笑顔を見せるようになっていて、賢吉や栄吉と言い合いをしながらも楽しそうにじゃれ合っていた。
そうだ。龍之介は諭吉、賢吉、栄吉の弟なんだ。家族で団らん楽しいはずだ。
皆と一緒に笑い合いながら、あたしは何だかとても幸せな気持ちになっていた。