タマと四兄弟と奥様と
ぐるぐると考えていると、龍之介がメニュー表をあたしに差し出した。
「何が食べたい?タマの好きなものいくつでも好きなだけ頼んで」
「お……おお……ありがとう……」
龍之介は優しく微笑んでいる。
あたしも龍之介に微笑み返した。
そのとき背後から声がした。
「あ――、俺ビフテキが食いてぇわ」
振り向くとスーツ姿の賢吉が立っていて、あたしと目が合うなり微笑んだ。
その後ろには諭吉と栄吉もいた。そして何故か奥様もいた。三兄弟は全員茶色いスーツを着ていて龍之介とあたしと5人でお揃いみたいになっていた。奥様だけ生成り色のブラウスに深緑色のスカートだった。
賢吉が「俺等も混ぜてよ」と言いながら隣のテーブルから椅子を引きずって持って来て丸テーブルの前に置くとあたしの隣に腰掛けた。
それを見た栄吉もあたしの逆の隣に椅子を持って来て腰掛けた。
龍之介は怒った。
「タマと2人で食事しに来てるんです!!!邪魔しないでください!!!ていうかタマの隣に座らないでください!!!」
奥様と諭吉は賢吉たちが椅子を持っていかなかった方の隣のテーブルの椅子に向かい合わせに腰掛けていた。
奥様と目が合うと、奥様はぎこちなく微笑んだ。
「元気そうね」
もう会えないかも知れないと思っていたのでまた会えて嬉しかった。あたしも気付けば微笑んでいた。
「元気です!!奥様もお元気そうで!!今日は家族でお出かけですか!?」
「ええ……まぁ……」
奥様はそう返事をしながら龍之介に視線を向けた。
龍之介も奥様に視線を向けて固まっている。
ああ、そうか……龍之介は子どもの頃奥様に酷いことされたから……。
諭吉、賢吉、栄吉も2人に注目して黙りこんでいた。
奥様が凜としながらもどこか遠慮ぎみな声で龍之介に話しかけた。
「龍之介ですね……?」
龍之介は硬い表情で探るように奥様を見つめた。
「……はい」
奥様は涙目になりながら龍之介に言った。
「松尾の妻です。昔、幼いあなたに大変酷いことを致しました。許してくれとは言いません。ただ一言謝っておきたくて……誠に申し訳ございませんでした……!!!」