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タマと四兄弟と奥様と

 あたしは生まれて初めて髪結店へ行きデパートで洋服たるものを着た。


 洋服は諭吉や賢吉や栄吉からも沢山もらっていたが、着る機会がなくて実家の押し入れの中にしまったままになっている。


 髪結店では今流行の耳隠したる髪型にしてもらい、デパートでは薄茶色のワンピースとパンプスとクロッシェ帽にオペラバッグとハンカチーフ、首にはダイヤのネックレスをあてがってもらった。


 デパートガールのお姉さんが顔の横で両手を合わせながら笑顔で言った。


「まぁ、素敵なモガですわ!美人さんだから何を着てもお似合いです!」


 龍之介も焦げ茶色の山高帽にスーツに革靴を身につけていて2人並べばモボとモガで流行の最先端だ。


 デパートガールのお姉さんは何だか必死に喋り続けていた。


「ご夫婦でお揃いのお色で仲睦まじい雰囲気が出てらしてより素敵に見えますわ!!」


 あたしが『夫婦ではない』と言おうとしたとき龍之介が嬉しそうにほっぺを赤くさせながら「じゃぁ全部ください」と言い、お買い上げとなり、値札だけ取ってそのまま昼食へと向かった。


 あたしは龍之介と肩を並べて歩きながら考えていた。


 龍之介はあたしと結婚したいと言っている。毎日花束や宝石や美味しい物を持って来てくれるのも、今この洋服などを買ってくれたのも全部あたしと結婚したいからだろう。


 あたしが女中や屋敷の人たちに菓子を配り歩くのとは訳が違う。


 あたしは行き行かないと何度言っても龍之介はあたしと結婚したいと言うのをやめない。なぜそこまであたしと結婚したいのだろうか……?


 考え込んでいると龍之介が微笑みながらあたしを覗き込んでいた。


「食べたいものある?」


「とくには」


「なら美味しいって評判の洋食屋があるんだけど、そこでいい?」


「おお、それは興味深い」


 龍之介は顔を緩めながらも少し残念そうに「芝居は15時からだからフルーツパーラーは無理かな」とつぶやいていた。


 街を歩く人々を見ると、男女の2人組もけっこう居て、男が前を歩いて女が後ろでうつむきながら歩いている人たちも居れば、横に並んで歩いている人たちも居る。腕を組んでいる人も1組だけいる。


 全員夫婦か恋人に見えるが、さっきのデパートガールのお姉さんが間違えたみたいに、他の人たちからは、あたしたちも夫婦か恋人に見えるのだろうか?


 龍之介はデパートガールのお姉さんに夫婦に間違えられてうれしそうにしていた。


 なぜ龍之介はあたしを好きになったのだろう?子どもの頃に少し会って、それからはずっと離ればなれで再会してからそれほど経ってないというのに。



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