タマと三兄弟・2
龍之介はあたしの前まで駆け寄ってくると、木に掛かったはしごの上に居る諭吉、賢吉、栄吉を見回した。
「さっき喋ってたみたいだけど知り合い……?」
これは諭吉たちの正体が知られてはいけないやつだ。
あたしは焦りながら答えた。
「知り合いというより植木屋だ!!それよりあたしに用があったのではないのか!!?」
龍之介は不思議そうな顔であたしを見た。あたしは怪しくないように目を逸らさずに龍之介をじっと見続けた。
龍之介は再び諭吉たちを見回してからあたしに視線を戻して、なにやら釈然としないといった表情ではあったが話し始めた。
「……うん。今日日曜だから僕休みなんだけど、愼志朗さんがタマも休んでいいって言ったから一緒に芝居でも見に行かないかなって思って」
「芝居!!?見たことがない!!!見てみたい!!!」
一瞬食いついてしまったが、すぐにハッと我に返った。
「……だが女中の仕事をあたしだけ休む訳にはいかない……」
おハナちゃんがあたしの背中を軽くポンポンと叩きながら嬉しそうに言った。
「行ってきなよ!!女中頭のわたしが許す!!」
「だがしかし……」
「わたしもこの前風邪で休ませてもらったんだし、おタマちゃんも休みなよ!!」
「病気で休むのと芝居が見たくて休むのでは訳が違う」
おハナちゃんは「いいからいいから!!」と言いながらあたしの背中を軽く押して龍之介のほうへ近づけさせると目を輝かせた笑顔で「若様連れてってやってくださいな!!」と弾んだ声で言った。