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タマと三兄弟・2

「あ――、九六子が居なくなって清々した!!」


 おハナちゃんが拳にした両手を頭上に(かか)げて伸びをしながら叫んだ。


 あたしは裏庭の落ち葉をホウキでちり取りに入れ終えると青空を見上げた。


 九六子ちゃんは本妻をやめて実家へ帰ってしまった。龍之介のことを好いていたのにどうして結婚をやめてしまったのだろうか?


 そのときおハナちゃんがあたしの耳元で嬉しそうな声でささやいた。


「ねぇ、あの植木屋、男前じゃない?」


 おハナちゃんが少し向こうの方を指さしていてそちらへ視線を向けると見覚えのある横顔があった。


「栄吉ではないか……!!!」


 はしごの上で木の葉の端をシャキシャキと切るのをやめた栄吉はあたしに視線を向けると「タマ……!!?」と驚いた顔をして、はしごから落ちそうになった。


 あたしは思わず「あぶない!!!」と駈け寄っていた。


 栄吉は何とか体勢を保ち、はしごの上から下りてきた。


「やっと会えた!!!タマを迎えに来たんだ!!!」


「あたしを……?」


「ああ。みんなタマを心配してる。一緒に帰ろう」


 そのときあたしの腕をおハナちゃんが両手で握って怒った顔で栄吉に言った。


「ちょっと!!おタマちゃんはここ倉島邸の女中なんだから連れて行くのはやめてもらえますか!?ていうかあなた誰ですか!?」


「タマは僕ん家の女中だ!!!みんなタマが居なくなって悲しんでいる!!!タマは帰してもらう!!!」


「は!!?さっきも言ったけどおタマちゃんはうちの女中なんです!!!ていうか名を名乗りなさいよ!!!」


「名は名乗れない!!!タマはうちのだ!!!」


「てか栄吉でしょ!!?さっきおタマちゃんが呼んでたわよ!!!おタマちゃんはうちのよ!!!」


「知ってるなら聞くなよ!!!タマはうちのだ!!!」


「うちのよ!!!」


「うちのだ!!!」


「うちの!!!」


 おハナちゃんは栄吉の頬に平手打ちをくらわした。バチンという乾いた音が響いた。


 あたしはあまりの出来事に一瞬何が起きたのか分からず呆然としてしまった。


 栄吉も呆然としていたが、「なにするんだ!!?」と叩かれた頬に手を添えながら怒った。


 おハナちゃんは栄吉のもう片方の頬にもバチンと平手打ちをくらわせた。


 あたしはおハナちゃんの両手を両手で握った。


「やめてくれ!!!暴力は反対だ!!!」


「放して!!!おタマちゃん!!!こいつおタマちゃんを誘拐する気よ!!!おタマちゃんはわたしのものなんだから!!!」


「あたしはどこへも行かない!!確かに松尾邸は恋しいが、今は倉島邸の女中なんだ!!!」


 おハナちゃんは興奮しながら憎しみを込めた声で栄吉に言った。


「ほ~ら、おタマちゃんもここがいいって言ってるじゃない!!!とっとと帰りなさいよ!!!」


 栄吉は両頬に赤い手の平の跡をつけた顔で涙目になりながらあたしに言った。


「松尾邸が恋しいんだろ?だったら帰ろう。みんなタマの帰りを待っている」


 あたしの頭には伯爵様が言っていたことが思い出されていた。


『松尾家の全財産を差し出してもらおうか』


 あたしが松尾邸に戻れば皆が生活できなくなる。

 

 あたしは笑顔をつくった。


「それは出来ない。あたしはもう倉島邸の女中なのだから」


 そのとき背後から懐かしい声がした。


「元気そうでよかったよ、タマ」


 振り向くと植木屋の格好をした諭吉が目を潤ませて笑顔で立っていた。


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