女中のタマ・2
頭にきたあたしは賢吉の手を振り払った。
「人身売買は法律で禁止されている!!!あたしは誰にも買われない!!!」
賢吉は一瞬驚いた顔をしたが、「ははは」と笑い始めた。
「そうか。男と接点がなさ過ぎて意味が分からなかったか」
そう言った後、再びあたしに顔を近づけてきてささやくような声を出した。
「男が女を買うと言ったときは金で枕を交わすという意味だ」
「枕……!!?枕を交換するのか!!?枕の交換をするだけで金をくれるのか!!?」
賢吉は再び驚いた顔をした後、今度は腹を抱えて笑い始めた。
何がそんなに可笑しいというのだ!!?
そのとき奥様が真っ赤な顔で怒鳴った。
「こんなバカを何相手にしているの!!!」
賢吉は笑うのをやめて奥様に注目した。
お茶の間で食事をしていた長男と三男も箸を止めて奥様に注目した。
あたしも奥様に注目した。
奥様は怒りながら大声で言った。
「そんなにここで働きたいのなら今すぐ土下座をして謝りなさい!!!」
「土下座……」
土下座で働けるのならいくらでもする。
あたしは奥様の前に正座をし、廊下に両手をついて頭を下げながら言った。
「敬語をついうっかり使い忘れてしまい誠に申し訳ございませんでした!!!」
「敬語だけじゃないでしょ!!?」
「それ以外には何も思い当たりません!!!」
「龍之介を勝手に町医者に診せたでしょ!!?そんなことをして松尾家の評判が落ちたらどうしてくれるの!!?龍之介を連れ戻して来なさい!!!」
怒鳴っている奥様に長男で17歳の諭吉が話しかけた。
「母さん落ち着けって。松尾家の評判は母さんが思っているほど良くないよ。これ以上落ちないから安心しなよ。それに龍之介なんてどうでもいいじゃないか。どうせ我が一族にとってあいつは腫れ物でしかないのだから」
諭吉も奥様に似た綺麗な顔をしている。奥様に似ているが諭吉のほうが目が切れ長で顔の形もしっかりしていて明らかに男の顔で、奥様を男にした顔だ。