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エルフさん♀には秘密が多い  作者: 茉莉鵶
第1章 幼少期編
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第09話 母親の部屋


 半狂乱状態のエルミリスは泣きじゃくっている。

 今、私は記念公園の木々が鬱蒼とした中にあるベンチの脇で、スパルディンと対峙していた。

 まず落ち着かせて、この場から遠ざけなくては…。


 「早く向こうに!!」


 頭ではそう思っているが、中々上手く伝わらない。

 それに、この状況では彼女は本来、主戦力なのだ。

 でも、そう上手く事が運ばないのが現実だ。


 「早く!!」


 彼女は更にパニックを起こすと、泣きながら駄々をこねる子供のように、その場で地団駄を踏み始めた。

 まだまだ、彼女は子供だという事が分かり、少しホッとした。


 「ねぇ…?エルミリス。落ち着いて…。落ち着いて…。魔法、使ってみない?」


 スパルディンの攻撃は、私の身体で防げばいい。

 彼女の魔法なら、一撃でも当たれば倒せるだろう。

 放置して二人でここから逃げるのも考えた。

 それだと、その後必ず誰かが犠牲になる。

 

 初遭遇の魔物が猛毒持ちとは、中々ツイてない。

 でも私に毒属性の適性があるのは分かった。

 だけど、毒属性の魔法なんて聞いた事がない。


 魔法教本に載ってないのだ。

 ましてやエリンダルフの街の人は皆無だろう。

 そんなまさかの属性の適性なのだ。

 きっと、私の目の色は、毒の翆色なのだろう…。


 そうだ!!

 そんな事は置いておいてだ。


 「『洗浄』!!」


 ──ザッパァンッ!!


 急に頭の上から多量の水が降り注いだのだ。


 「あ。」


 落ち着きを取り戻したエルミリスが目の前に居た。

 そうか…。

 今のが、水属性魔法か。


 「アヴィルナ?あいつ、引きつけてくれる?」


 彼女の手には…木製のお箸が一本握られていた。

 杖代わりという事だろう。

 お義父様から、杖は天然素材なら大体イケると教えられたのを、彼女は思い出したのだろう。


 「勿論。任せて?」


 私は足元に落ちていた太い木の枝を拾った。


 「ほら!!こっちだ!!かかってこい!!」


 目の前に迫る、スパルディンを挑発するように木の枝を振り回した。

 流石に、二度も攻撃を加えている相手を、スパルディンは見逃す訳がない。


 ──プシュッ…!!


 「うわっ…!?」


 こちらに向かい、猛毒の毒液を噴射してきた。

 身体に少し当たる程度に仰け反り躱すフリをする。


 エルミリスはと言えば、私の遥か後ろまで後退して距離を取っていた。


 「くるな…!!くるな…!!」


 私は少しずつ身体の向きを変えながら枝を振る。

 余裕な態度でスパルディンがジリジリ迫ってくる。


 ──プシュッ!!


 再び、毒液が噴射された。

 彼女の目の前で、スパルディンと横一列に並んだ。


 「『氷の玉』!!」


 ──ビュンッ!!


 彼女から放たれた大きな氷の玉は、猛スピードで一直線に飛んでいきスパルディンを襲った。

 地球の単位で、1メートル程はあっただろうか。


 流石に、巨大な氷塊に衝突されたので、スパルディンはひとたまりもなかった。


 「やったぁ!!」


 遠くから彼女の嬉しそうな声が公園内に響いた。



────



 この日の学校は、事態を重く見て休校となった。

 流石に、学生達が利用する記念公園に、猛毒の魔物が居たのはマズかった。

 エリンダルフの街を護る、魔法使いや騎士達がゾロゾロと派遣されてきた。

 その中に、お義父様の姿があったのは、言うまでもない。


 そうだ。

 あの後の私達についてだが…。

 噛まれた傷はエルミリスに治療してもらった。

 その上で、スパルディンの脚を拾い、学校の担任の先生に伝えた。


 伝えた内容はこうだ。

 記念公園の木々が鬱蒼とした場所のベンチで、お昼を食べていたら、スパルディンが突然現れた。

 そこで、魔法を使って応戦して、退治した。

 と…。


 実は担任の先生、魔法使いアヴィンの熱狂的なファンなのだ。

 私はその息子なので、すぐに信用してくれたのだ。

 まさか…噛まれたとか、猛毒を浴びたとか、エルミリスが退治したとかなんて、言えなかった。


 事情を汲み取って、エルミリスは沈黙を貫いた。

 彼女は本当に出来た私の許嫁だ…。


 休校になった事もあり、私はエルミリスを連れて家に帰宅していた。



────



 エルミリスは、お弁当の件でお義母様の所に居た。

 なので私は、一人きりになってしまっていた。

 だから、暇つぶしに家の中を散策し始めたのだ。


 とは言っても、家にある部屋は限られている。

 リビングとダイニングキッチン、クローゼット、お義父様とお義母様の部屋、母親の部屋、私の部屋、空き部屋、お風呂場、お手洗いだ。


 そう言えば…。

 母親の部屋には何か仕掛けが施されているようだ。

 迂闊に扉を開けると死人が出ると、お義父様が言っていた記憶があった。

 母親というのは、失踪した私の実の母親の事だ。

 未だに色々と謎が多い人物なのだ。


 母親の部屋は家の2階の階段を上がり、廊下を奥まで行った所にある。

 私は、興味本位で2階へ上がってみた。

 この階には、お義父様達の部屋と、母親の部屋、空き部屋、二箇所目のクローゼットがある。

 以前は2階の空き部屋を、私の為に魔法の練習部屋に使っていた。

 現在では、彼女の家で練習するようになった。

 だから、今の私は殆ど2階へは立ち寄っていない。


 廊下を奥へと進むと、母親の部屋が見えた。

 部屋の扉に、猛毒注意と書かれた札がついている。


 ん?

 猛毒…注意?

 こんな所で、私に関係する言葉が出てくるとは…。


 ここで躊躇しても仕方がない。

 思い切って扉の取っ手に手をかけた。


 ──ガチャッ…


 別に普通だ…。

 何も変わり…あるか。

 取っ手を掴んでいる手がベチャッと濡れていた。

 多分、取っ手を回すと液体が滲み出る仕組みだ。


 猛毒と思い、普通は皆んな慌てて手を離す。

 心理を突いて、よく出来てる。


 まぁ、本当にこの液体が猛毒かもしれないが。


 ──ギィィィィッ…


 多分毒属性の私にそんな脅しは無意味だ。

 ゆっくり扉を部屋の中へと押し込んだ。


 ──プシュッ!!


 部屋の中から顔の辺りに向かい、何か噴射された。

 無論、私の顔へと霧状の液体が直撃した。


 これで三度目?!

 スパルディンの毒霧攻撃が良い予習になっていた。

 それにしても…殺る気十分の仕掛けだ。

 完全に、侵入者の命を奪いにきている。


 一体全体、母親は何をこの部屋に隠しているんだ?

 きっと、余程な物なのだろう。



────



 呼吸を整え、そっと部屋の中に足を踏み入れた。

 母親の部屋は窓の無い間取りだった。

 部屋の中は…見たことない本や巻物でいっぱいだ。

 部屋の奥にはベッドと机が置かれていた。


 机の上に置かれた本のようなものが気になった。

 そっと机の元へと近づいた。

 すると、その本の表紙にはこう書かれていた。

 『愛するアヴィルナへ』と…。


 思わず私はその本を手に持った。


 ──バタンッ!!


 音で振り返ると、勝手に扉が閉まっていた。

 本の重さが無くなり、仕掛けが動いたのだろう。

 お義母様や彼女が来ると、面倒なので丁度良い。


 私は本を開いた。

 本の正体は、母親が私に宛てた手記帳だったのだ。

 そこには母親の名前も記されていた。

 母親の名前は、アヴィエラというようだ。

 ずっと私は…教えて貰えず、今まで育てられた。


 そこにはこう記されていた。

 『アヴィルナ?あなたは私達の大切な子供です。でも、今はまだ私達とは一緒には暮らせません。だから、あなたを私の両親に預けていきます。あなたが14歳になった年、私達は迎えにいきます。だから、待っていて下さい。それまでに、エリンダルフに大きな出来事が起こるでしょう。でも、あなたはきっと大丈夫。あなたの生まれ持った素晴らしい属性を活かせば良いのです。少しでもあなたの役に立てばと思い、魔法をこの後の頁に記しておきますね。では、母より愛を込めて。』


 私達とは…父親も一緒に居るということなのか?

 エリンダルフに大きな出来事とは…何なのだろう。

 そんな事を思いながら、手記の次の頁をめくった。


 その頁は毒属性の魔法がビッシリと記されていた。


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