第05話 誕生日と家業
「お誕生日おめでとう、アヴィルナ!!」
私は5歳の誕生日を迎えた。
慎ましやかではあるが、私の家でお祝いの席が用意された。
勿論、許嫁のエルミリスちゃんは忘れず呼んだ。
食卓を皆で囲んでいるのだが、私の隣には彼女だ。
「アヴィルナくん…。おめでとう…。」
──チュッ…。
「あらぁ…!?お熱いわね…。」
「おいおい…。まだ、早くないか…?」
おっと…。
私の両親の目の前で、彼女は唇を重ねてきた。
このところ、彼女の私に対する行動は…。
日を追うごとに、大胆さを増してきている。
「私達、夫婦になるんです。ダメ…でしょうか?」
確かにそうなのだけど…。
二人が結婚出来るまで、あと9年くらいある。
「いやぁ…。ま、まぁ…。悪くない…。うん、悪くない…。」
そう言えば、あれから私に待望の弟が出来た。
正確に言えば…私の実の母親の弟にあたる。
なので、本来であれば叔父だったと思われる。
産まれたのは彼女の家に行った、次の月だった。
名前は、ユリヴィスと名付けられた。
その日から、お義母様は弟の面倒につきっきりだ。
だから、家事はお義父様と私でなるべくしている。
見かねて、彼女が手伝ってくれているのが現状だ。
全くもって…彼女はよく出来た未来の私の妻だ…。
そんな事もあり、お義父様は彼女に頭が上がらないことを思い出したのだろう。
「良かったぁ!!お義父様、ありがとうございます!!」
彼女と私は、お義父様に深々と頭を下げた。
まぁ、認められたのだ、それくらいしなくては。
「もうっ!!あなたったら…。」
ユリヴィスを抱っこしながら、お義母様は呆れ顔だ。
「仕方ないだろ…?エルミリスちゃんには、家事手伝って貰ってるんだから…。」
「えっ…?!」
ヤバい…。
それは三人の秘密のハズだ。
「あーあ…。あっち行こっか?」
「うん…。」
食卓のあるダイニングから彼女と二人脱出した。
────
てっきりお義父様がしっかり家事をこなしていると、思い込んでいたお義母様。
まさか、エルミリスちゃんが手伝っているとは、思いもしなかったようだ。
──ガチャッ…
私の部屋で彼女とイチャイチャしていると、お義母様が部屋までやってきた。
でも、弟の姿はないようだ。
「エルミリスちゃん?今まで、手伝わせてしまって…ゴメンなさいね?」
「いいえ、お義母様?私は…早く、アヴィルナくんの妻になりたいので、家事のお手伝い…させて下さい!!」
私達はベッドの縁に二人で腰掛けていた。
言い終わった彼女は、縁からピョンと床に降りた。
はい…?
本当に彼女、6歳児なのだろうか…。
そう思っていた時だった。
お義母様の居る方へ向かって、彼女は歩き始めた。
「お義父様のこと、怒らないであげてください。私が、お手伝いしたいって、お願いしたんです!!」
確かに、そうだった。
悪いからと断るお義父様に対して、彼女は何度も何度も…頼み込んでいた。
お義父様が根負けして、手伝ってもらっていた。
三人だけの秘密という事にして…。
「そうなの…?!分かったわ…。」
まさかという様子で、驚きを隠せない様子だった。
すると部屋の扉を開け、慌てて部屋の外へと出た。
それにしてもだ。
弟を産んでからお義母様は、明らかに若返った。
肌の張りや透明感が、失踪した私の母親みたいだ。
エルフは長命故、みんなそうなのだろうか?
──ガチャッ…
「あ!そうそう。二人とも早くいらっしゃい?」
閉まった扉が直ぐに開き、お義母様がそう言った。
ああ…。
そうだ。
さっきまで、私は誕生日のお祝いをされていた。
お義父様の不用意な一言のおかげで、この状況だ。
「ねぇ…。こっちきて?」
扉の近くで立っている彼女に、手招きをされた。
私は、ベッドから降りて、彼女の方へ向かった。
彼女に呼ばれて、行かない男は居ないと思う…。
──チュッ…。
────
エルミリスちゃんと食卓のある部屋へと戻った。
すると、お義父様が何やら両手で抱えている。
表紙に宝石が埋まった立派な装丁の本に見える。
「おやおや…?お前達、遅かったな?まぁいい。アヴィルナ、これをお前に預ける。」
お義父様は私の目の前へと、スッと差し出した。
やっぱり本だ…。
表紙には『魔法教本 初級』と書かれている。
「ああ、これを渡す前にだ。お前に、色々と話しておかなければならない事がある。」
いつもふざけているお義父様が、真剣な表情だ。
「はい。」
今、普段のノリで答えるのは場違いだと察した。
他言は無用だろう。
「まぁ、座って話そうか?座れ座れ。お、エルミリスちゃんもか…?退屈な話かもしれないぞ?」
「大丈夫です!!夫の話は妻の私の話です!!」
おお?!
頼もしい限りだ。
私が聞き逃しても多少、平気だろう。
「お前、ホントに良かったなぁ?こんな良い子が将来お前の嫁さんになるなんて…。」
本当にそう思う。
この世界では、彼女以外あり得ないだろう。
「はい。これもお義父様のおかげです。ありがとうございます。」
母親が約束を違えたからというのもある。
そうしていなければ、私の誕生すら危ういが…。
もっと言えば…私が同窓会に行ったからで…。
ふと、絢乃ちゃんの事を思い出した。
あんな場面に遭遇して、精神的に大丈夫だろうか。
それだけが私は気がかりだった。
もう…今となっては、どうにもならない事だが。
「それでだ。アヴィルナも、もう5歳だからな?今から言うこと、よく覚えておくんだぞ?」
ここから、お義父様の長い長い話が始まった…。
話を要約すると、こういう内容だった。
まず、我が家の名字はリーデランザというようだ。
5歳になるまで、その名を聞かなかったのも凄い。
次に聞いたのは、アヴィンの職業についてだった。
アヴィンは朝家を出て行き、夕方帰ってきていた。
てっきり、日本でいう会社員だと思っていた。
「私はこの街を守る、魔法使いをしているんだ。」
そう言われた時は流石にビックリした。
だって、近代的な…服装や生活をしているのにだ。
魔法使いなんて職業が、存在しているなんて。
まるで世界的な映画になった、あの小説みたいだ。
エルフだから、初めそういう世界を期待していた。
でも、近代的すぎてそんなの幻想だと諦めていた。
「えっと…私達の種族は、何て呼ばれているの?」
私が一番気になっていた事だった。
どこかで聞けるチャンスはないかと、温めていた。
「ん?このエリンダルフの街の人々の事か?それなら、エリンダルフ人だが?」
エルフじゃなかった…。
どちらかというと、日本人やアメリカ人と呼ぶような感覚だろうか…。
この世界に来てから、5年ほど経つ。
でも、エル…いや、エリンダルフ人以外の姿を見た事がない。
そこが一番気になっている事だった。
「話は逸れたが、アヴィルナ?私達は街の平和を守る、魔法使いの仕事を先祖代々しているんだ。」
「先祖代々ですか…?!」
おっと。
面白くなってきた。
折角、エルフに生まれ変わったんだ。
エルフらしい事をしたいと思っていた。
正確には、エリンダルフ人だが。
「そうだ。だから、お前も大きくなれば、私と同じ…魔法使いにならなければいけない。」
「私は、魔法使いになりたいです!!魔法覚えたいです!!」
そんなやりとりがあり、先程の本を手渡された。
『魔法教本 初級』と書かれた本をだ。
ズッシリと重く、厚さは5cmくらいありそうだ。
とりあえずは自分で読んで試してみろと言われた。
初級という事で、危ないことは殆どないらしい。
何事もチャレンジしなければダメだと感じた。
まずは、基本的な事を読んで覚えていこうと思う。
一人前の魔法使いに、少しでも早くなれるように頑張らなくては…。