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エルフさん♀には秘密が多い  作者: 茉莉鵶
第5章 青春編 変わっていく関係編
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第40話 拗れた二人の関係


 「アヴィルナはここに居たのか。探すのに苦労したぞ?」


 早朝で薄暗い寮の廊下の向こうから、私の元へと一直線に歩いてきた男性。

 開口一番、あろうことか…日本語で私を本名で呼んだのだ…。

 身長はスラリと高く、私の隣にいるリゼイルよりも大きい。

 何といっても…目を引いたのは綺麗な黒髪だ…。

 独特の肌の色も相まって…日本人を彷彿とさせる。


 それに、私はこの男性の顔には見覚えがあった。

 未だ忘れもしない、同級生の鈴木由香さんの弟だ。

 名前を、鈴木(すずき) 由幸(よしゆき)と言った筈だ。


 学生の頃、同じ部活に所属しており、何故かは知らないが…私に懐いていた。

 事あるごと、姉の由香さんを私に薦めてきたのだ。

 あと、性別は違えど二人は凄く似た顔立ちだったのを覚えている。

 更に、二人の母親もそっくりで、間違えて街で声をかけてしまった程だった。


 でも、まさかだ…。


 「えっと…。どちら様でしょうか…?」


 弟の由幸くんまで異世界転移してるなんて事、普通考えられるだろうか?

 姉の由香さんは…同窓会の二次会に向かう途中、暴走してきたダンプに、私と共に轢かれた筈だ。

 でも、由幸くんはあの場所には居なかった筈だ。

 だから、私たちと共に異世界へ来たとは考え辛い。


 「やれやれ…。何を言い出すかと思えば…。全く…困ったものだな?お前さん、この顔に見覚えないとは言わせんぞ?」


 これは…一体全体、どういう事なんだ…。

 この口ぶりは明らかに、ユカさんだろう。

 でも…どう見ても、私には由幸くんにしか見えてこないのだ…。


 「はい。確かに、そのお顔には見覚えがあるのです…。ですが、その方は…。」


 「ああ…そうだぞ?」


 私がユカさんの名前を言おうとすると、遮られた。


 「えっ?」


 「まぁ…そういう事だ!!これから毎日楽しみだな?」


 この含みのある言いっぷり…。

 まるで自分がユカさんであると、私に対して暗に主張してるように聞こえる。

 仮にそうだとしてもだ…。

 ユカさんの身に一体、何が起きたと言うのだ…。


 「なぁ…?エルフ?さっきから、二人で何話してるんだ??」


 おっと…。

 これはマズいことになった。

 自分が分からない言葉で会話する私たちの姿を見て、リゼイルが焼き餅を焼き始めた…。

 この後、授業が始まるまで部屋で二人きりになる。

 色々…面倒なことを起こさなければいいのだが…。


 「あ…。リゼイル、ゴメンね?この先生はね?以前、エリンダルフの街に来たことがあるの。その時、知り合ったんだけど…。」


 「へぇ…?そんな話、俺は…一言も聞いてないぞ?」


 時間遡行後のリゼイルは…私に執着している…。

 だから、私の過去を根掘り葉掘り…知りたがる。

 部屋等で二人きりになれば、大体そんな流れだ…。


 今、リゼイルに話したのは…咄嗟に実話を交えた作り話なのだが…。

 でも、ユカさん?がエリンダルフの街を訪れたのは事実だ。

 正しくは…学校の記念公園へと宇宙船が墜落してきたのだが。

 その宇宙船からユカさん?を救出したのが私だ。

 だから、話の辻褄は大体は合っている。


 「やれやれ…。若さとは、怖いものだな?」


 困った表情の私を見かねたユカさん?は、助け舟を出してくれた。


 「なぁ、君?どうしてそんな怖い顔をしてるんだ?」


 「…ん?俺、そんな顔してますか?」


 いやいや…。

 敵意丸出しでリゼイルはユカさん?を睨んでいる。


 「ああ…。隣のエルフちゃんが困った顔しているぞ?そうだ、君の名前を聞いてもいいか?」


 私が他の異性と話すだけで、リゼイルは変貌する。

 ユカさん?の言う通りで、本気で私は困っている。


 「そうですかね?ああ、俺の名前ですか?エルフの恋人で、剣士をしているエタルティシアのリゼイルと言います。」


 「ありがとう。そうか…君が噂の副学長の御子息か。では…また後程。」


 半ば呆れ気味でユカさん?は会釈すると、手を振って来た廊下を戻り始めた。

 すると、待ってました!とばかりに女子生徒達がユカさん?の周りを囲ってしまった。


 「先生!!恋人持ちのエルフなんて相手しないで!!」


 「そうです!!私達が居るじゃないですか!!」


 まだ、公に紹介されていないのにこの人気ぶりだ。

 確かに、由幸くんは学生時代に凄く人気があった。

 女子生徒の間で、ファンクラブがあった程だ…。

 男性教師が非常に少ないこの英雄学校で、そんな容姿の男性教師が赴任したら…。

 どうなるかくらい軽く想像がつくだろう。

 リゼルディアさんでさえ、女子生徒を侍らせて…。


 「そうだな?それなら、お前さん達はこの私に尽くしてくれるか?」


 「はい!!私、何でもします!!」


 「抜け駆けダメ!!私だって…!!何でもさせて頂きます!!」


 徐々に、廊下の向こうへ遠ざかっていくユカさん?と女子生徒達。

 彼女達による、ユカさん?に対する猛烈なやり取りの会話が、部屋に入っても暫くの間…廊下から響いて聞こえていた。



────



 「おいっ!!エルフ!!あいつは誰なんだよ!!」


 リゼイルと私は、寮の部屋へと戻ってきていた。

 恐らく、今日の朝はユカさん?着任の集会がある。

 なので私は、部屋着から制服へ着替えようと、寝転がっていたベッドの上から起き上がった。

 すると、私の隣で寝転がっていたリゼイルが、急に怒鳴り始めたのだ。


 ──ドンッ!!


 「キャッ!!」


 身体を起こしていた私は、リゼイルによってベッドへと力強く押し倒されてしまった。


 ──ドスンッ!!

 ──ゴンッ!!


 「いっ…!!」


 倒された際に、私はベッドに後頭部を打ちつけた。

 そんな私のお腹の上へ、リゼイルは馬乗りになって覆い被さった。


 「リゼイル…重いよ…。何…してるの…??私、さっき言ったよ…?街で知り合ったって…。」


 「なら、どういう関係なんだ!!え??言えるよな??」


 リゼイルは物凄い剣幕で、私を怒鳴り散らした。

 こんなリゼイルの姿…今まで見たことがなかった。


 ──グッ…!!グッ…!!グッ…グッ…!!


 怒りに任せ…私の両方の肩口を凄い力で掴むと、何度も何度もベッドへ押さえつけてきた。


 ──ギシッ…ギシッ…ギシッ…ギシッ…


 「痛い!!痛いよ!!やめてよ!!リゼイル!!」


 あまりにも強く押さえつけれるので、ベッドがその度に軋む音を立てた…。

 たまらず私も…叫び声をあげてしまった程の力だ。

 これはもう…ドメスティックバイオレンスと呼ぶ他なかった。


 ──バシンッ!!


 「うるさい!!俺の質問にだけ答えろ!!」


 え…?

 私は茫然自失してしまった。

 リゼイルが平手で私の頬を思い切りぶったのだ。


 ああ、もうダメだ…。

 目から涙が溢れ出てきた。

 私の中で糸がプツンと切れるような音が聞こえた。


 「もう…無理。」


 思わず私の口からそんな言葉がこぼれ落ちていた。



────



 「エルフ、ゴメン!!俺が悪かったんだ!!」


 さっきからリゼイルは、ベッドの上で無気力になって横たわる私に向かい、謝り続けている。

 もう、どうでもいい。

 そんな言葉が、私の頭の中を埋め尽くしていた。

 無抵抗なパートナーに対し、手をあげるようなDV野郎は相手にする価値もない。


 「もう、別れよ?暴力振るう人、一緒に居たくない。」


 リゼイルを逆上させる可能性はあったが、したらそれこそ私たちの関係は終わりだ。

 私なりに最後のチャンスを与えてあげたのだ。


 「エルフの事になると、激しく嫉妬してしまう俺が悪いんだ…。取り返しのつかないこと、エルフにしてしてしまったね…。」


 ふむ…。

 私も、そこまでは鬼ではない。

 でも…今までみたいには、リゼイルのことを相手に出来そうにはない。

 一度切れてしまった糸は、なかなかくっつかない。


 「一度だけ…だよ?もう二度目は無いから…。今の私は、先生と付き合っても良いかなって…気分だから。」


 「ありがとう…。俺、努力する…。」


 これくらい言っておけば、私のことを本当に愛しているなら…リゼイルも目が覚めるだろう。

 覚めなければ、リゼイルの元を離れるだけだ。

 

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