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エルフさん♀には秘密が多い  作者: 茉莉鵶
第1章 幼少期編
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第04話 黄昏の幼時


 「あなた…?ダメじゃないですか!!もう!!」


 「ゴメンゴメン…。」


 エルミリスちゃんが許嫁になり、一ヶ月が過ぎた。

 今は我が家で…二人、おままごとの真っ最中だ。


 夫婦生活の予行練習とでも言うのだろうか。

 いやいや…。

 まだ二人とも、4歳と5歳だ。

 この世界で結婚出来るのは14歳からだ。

 少なくともあと十年は先だ…。


 「あの…。アヴィルナくん…?聞いても良い?」


 急に、おままごとが中断された。

 ここのところ、このパターンが多い。


 「何でしょう?」


 「あのね…?赤ちゃんは…何人欲しい?」


 へ…!?

 5歳…だよね?!

 イシェルザさんにでも言われたのだろうか…?

 そうでなければ…結構なおませさんだ。


 「うーん…そうだねぇ?二人…くらい?」


 「私は…ね?アヴィルナくんが居れば…別に…。」


 何だ何だ…?

 本当にこの子…5歳!?

 モジモジしながら、確かにそう言った。


 「エルミリスちゃんは、赤ちゃん…欲しくない?」


 「赤ちゃんに、アヴィルナくん…取られちゃいそうだから…。」


 いやいやいやいや!!

 逆、逆!!

 赤ちゃんに取られちゃうのは…キミなんだけどね?

 まぁ、大人な発想じゃなくて、少しホッとした。


 「大丈夫だよ?取られないから!!安心して?」


 「ホント?!私…アヴィルナくんとね…?ずっと…ずっと一緒に居たい!!」


 何だろう…。

 不安なことでもあるのだろうか?

 許嫁なのだから、結婚までは一緒だろう。

 その後までは、分からないが…。

 どうしたら…安心してくれるだろうか?


 「ねぇ…?エルミリスちゃん、キス…しよ?」


 前世での実体験から言えば…あの時はダメだった。

 でも…キスは愛情表現的にいえば、効果的だ。

 一か八か…私は賭けてみた。


 「うん…。アヴィルナくんなら…良いよ?」


 マジか…。

 思わず、ゴクリと生唾を飲み込んだ…。

 否応なしに彼女から求められる未来が見える…。

 更に…その先の事も想像して、涎も出てきた。

 うん、そんな未来なら悪くないな…。


 エルミリスちゃんの両肩へと手を乗せた。

 そして…そっと顔を近づけた。


 「こらっ!!もぉ…。」


 急に声がして、ビクッとしてしまった。

 声の主は、私のお祖母様…。

 いや、もとい…ユリエナお義母様だった。


 「いい?二人とも、よく聞いてね?キスは…あなた達二人にとって、大事な時にするものなの…。」


 「あの…おばさま?今が大事な時なのっ!!」


 おいおい…。

 ユリエナお義母様が、言い切るまえに被せてきた。

 可愛いけど、未来の妻は…なかなかやる。

 そして、急に私に顔を近づけてきた。


 ──チュッ…。


 お…。

 家族以外から…初キスされた…。

 しかも、唇にだ。

 男の私からするのが、とも思ったが…。

 日本では多様性が騒がれ始めていたっけ…。

 これはこれで、良しとしよう。


 「アヴィルナくん?大好きだよ…。」


 積極的なのは…嫌いじゃない。

 でも…本当に5歳なのか?


 「私も好きだよ?エルミリスちゃん…。」


 ──チュッ…。


 今度は、私から…。

 彼女の唇に、そっと重ねた。


 「はぁ…。えっと…。うーん、調子狂うなぁ…。」


 傍では、ユリエナお義母様が立ちすくんでいた。



────



 キスの一件から、一ヶ月程経っただろうか。

 あの日から、彼女は毎日のように家に来ていた。

 日によっては、一緒にお風呂に入る事もある。

 それくらい、彼女と私の仲は…急接近していた。


 たまにだが、私の家に泊まる日もある。

 その時は、私の部屋のベッドで一緒に寝るのだ。


 でも、彼女の家には一度も行ったことがない。

 私のお祖父様…いや、違う違う。

 お義父様がお義母様と彼女の家の事を話していた。

 恐らく、彼女の両親に何か問題があるのでは?

 そんな内容の話を、夜中に耳にしてしまった。


 確かに、彼女は一人で私の家にやって来る。

 隣の家とはいえ、一度くらい誰か顔を出す筈だ。

 でも、誰も付き添いも、迎えにすらも来ない。


 祖父のイシェルザさんは、医者の為多忙で無理だ。

 彼女の祖母も医者の為、殆ど病院に居るようだ。

 そうなると、自ずと…親は?という事になる。


 彼女は帰り際になると、寂しそうな表情をする。

 それが全てを物語っているのかも知れない。


 今日も、夕方になってきたので、いつもの流れだ。


 「あっ…。アヴィルナくん?私、そろそろ帰る。」


 だけど、今日の私はいつもとは違った。


 「あのさ…?エルミリスちゃんのお家、今から一緒に行っても良い?」


 「えっ…。」


 あれ…?

 普段なら、私の言うことは即答オッケーなのに…。

 何故か、困った表情を彼女はしていた。


 「ダメ…かな?嫌なら…。」


 「えっと…。えっと…。ダメ…じゃないよ!!」


 まだ、私は言いかけていた。

 だけど…慌てた彼女は被せてきたのだ。

 明らかに…困っている感じは凄く感じた。

 きっとだが…私に嫌われたくなかったのだろう。

 思わず、口に出してしまったのだ。


 でも、彼女の家の内情を知る良い機会だった。


 「あの…。あの…。ちょっとだけ…だよ?」


 「うん。少し、お邪魔させて。」


 そうして、私は…彼女に手を握られ家の外に出た。


 ──バタンッ…


 後ろで玄関の扉が閉まる音が聞こえた。

 初めて、家族以外と外へ出た。

 しかも夕方だ…。


 「わぁ…。綺麗な夕焼けだね?」


 「うん!!私も、この夕焼け好きなんだ…。」


 何か言いかけ、彼女は口を噤んで俯いてしまった。

 そのまま、私は彼女に手を引かれ家の前まで来た。


 「ここが…エルミリスちゃんのお家?」


 「うん…。ちょっとここで待っててね?」


 強く握っていた私の手を、彼女はゆっくり離した。

 そして、玄関の前に立つと、自分で鍵を開けた。


 「アヴィルナくん?私の後…ついてきて?」


 ──ギィィィィッ…


 玄関の扉を、彼女は全身を使って押し開けると、そのまま中へと入っていってしまった。

 慌てて私は彼女の後を追うと、玄関の中へ足を踏み入れた。


 ──バタンッ…


 「ふぅ…。間に合ったぁ…。」


 間一髪だった。

 私が玄関に入ると、重そうな玄関の扉が閉まった。


 「良かった…。ゴメンね?玄関の扉…重くて…。」


 心配そうな表情で私の方を彼女は見つめていた。

 それにしても…広い玄関だ。

 私の家の倍以上はあるんじゃないだろうか?

 流石に夫婦揃って医者の家は違うようだ。

 私の家のように、父親だけ働きに出る家とは…。


 玄関ホールの調度品も高そうな物ばかりだ…。

 普通の4歳なら何も思わないだろうが…私は違う。

 両家の格が違いすぎるような気がしてきた…。


 こんな良家の…所謂ご令嬢を、一般家庭の私が…妻に貰ってしまって良いのだろうか?


 「あのね?アヴィルナくんに…会って欲しい人が居るんだ…。」


 えっと…。

 こういう展開か。

 家に入れてもらった以上…覚悟しないとダメか。


 「うん。」


 「良かった!!じゃあ…。一緒に会いに行こ?」


 一体、誰に会わされるんだろうか…。

 彼女の祖父母には既に会っていて、面識もある。

 となると…ご両親だろうか?


 ──ギュッ…。


 気づけば、彼女に右手をしっかりと握られていた。

 うん…。

 いつ見ても可愛い…。

 それに、品がある。

 大きくなったら…押し倒してしまいそうだ…。


 「こっちだよ…。静かにね?」


 玄関ホールから、彼女に手を引かれ歩き出した。

 上を見上げてもひたすら、吹き上げになっている。

 少なくとも三階建てくらいの高さはありそうだ。


 暫く歩いただろうか…。

 4歳児の足だからかもしれないが、かなり広い。

 家の右奥の部屋の扉の前まで来ていた。


 「ここだよ?」


 ──ガチャッ…。

 ──ギッ…ギッ…ギッ…ギィィィィッ…。


 彼女が部屋の扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。

 すると、真っ白な部屋の真ん中に、真っ白なベッドが置かれているのが見えた。


 「入ろ?」


 「うん。」


 二人手を繋いだまま、ベッドのある方へと一直線に向かい歩き始めた。

 ベッドの上で誰かが寝ているのが見え始めた。


 やがて…エルミリスちゃんの成長した姿のような女性が、ベッドの上で眠っているのが確認できた。


 「これが、私のお母様だよ?病気で、目が覚めないの…。」


 なるほど…。

 これが理由か。


 「私は、アヴィルナと申します。エルミリスさんの許嫁です。お義母様、宜しくお願いします。」


 聞こえているかではなくて、気持ちの問題だ。

 お腹を痛めた大事な娘さんを、妻にもらうのだ…。

 これくらいの心意気がなければダメだ。


 「アヴィルナくん…。お母様の為に、ありがとう!!」


 祖父母が医者なのに、何と皮肉だろうか…。

 この世界にも、治せない病があるのだと知った。

 そして、私は心に誓った。

 エルミリスちゃんだけは幸せにしたいと。

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