第39話 変わってしまった未来
ここ一ヶ月程で、リゼイルの成長が目覚ましい。
言っておくが、性的な意味でということではない。
ただ…シルヴァス先生の部屋での疑惑の一件。
部屋に戻っても、リゼイルは何も語らなかった。
そんな態度を取られ、私は心乱し判断が鈍った。
いつもリゼイルは、二人きりになると私に甘えた。
私に身体を…求めたそうだったが、約束があった。
その為、私と触れ合いたいと切に要望してきた。
だがそれは…普通の触れ合いではなかったのだ…。
過剰なまでに私の身体を長く撫でまわしてきた。
ただ、私もリゼイルの蛮行に黙ってはいなかった。
大事なトコロを触ろうとすると、激しく拒絶した。
説明にしてはかなり話が盛り上がってしまった。
話を戻すと…私はあの一件後、焦りを感じていた。
私は…リゼイルに真相を話してもらいたかった。
だから、私だけデメリットな交換条件を提示した。
それは…私の身体をリゼイルの好きにして良いと。
だが…そんな好条件を受けてもリゼイルは渋った。
普段のリゼイルなら…大喜びで条件を飲んだ筈だ。
暫く時間が過ぎた頃、リゼイルの重い口が開いた。
リゼイルが語ったのは、相当エグい内容だった…。
その内容については、この後で話すとしよう…。
まぁ、そんなこんなで…最近のリゼイルは凄い。
家系である剣士としての剣技は勿論なのだが…。
生属性魔法があと少しで実戦レベルに届くのだ。
ファンタジーものの作品でよく見かける職業…。
そう、魔法剣士にリゼイルは今、なりつつある。
もしかして、私が居なくても良いかも知れない。
そんな風に、私を思わせるくらいなのだ。
もしも、私が戦力外になれば…。
もっと二人で恋人らしいこと…沢山出来るはずだ。
万一、子供を授かってしまっても問題ないだろう。
だって…私には生属性の適性なんかなかったから。
適性があるのは…死属性と付随する毒属性だけ…。
だから、生属性を扱えない私は存在意義が希薄だ。
もし…エリンダルフの街へ戻れても、役立たずだ。
私ではエルミリスの母親は、目覚めさせられない。
それが、リゼイルが行くことで叶えられるのだ…。
私の両親、エルミリスと家族の長年の悲願なのだ。
それでか最近の私は…何かにつけ塞ぎ込みがちだ。
すぐにため息をついてしまうようになっていた。
待っていても良いことが無かった、前世みたいだ。
まぁ…でも今は恋人のリゼイルが居るので違うか。
前世では30歳になっても恋人すら出来なかった…。
あの頃のモブキャラな私に比べれば全然マシか。
恵まれた環境に異世界転生し、感覚が狂ったのか。
そうだ…今、私は…薄暗い部屋のベッドの上だ…。
獣のようにリゼイルは…私へ欲望をぶつけてくる。
そんなことになるのは、分かっていたはずだ。
でも…それを迂闊にも許したのは私自身だ…。
こんな生活が、二人きりになると毎日続いている。
タガの外れたリゼイルは、情け容赦なかった。
自分が満足するまで、何度も何度も私を弄ぶのだ。
私が泣き叫ぼうが、失神しようがお構いなしだ…。
先程、子供の話をしたのはそういう理由からだ。
まさに今…リゼイルが私の上にのしかかっている。
そして、私の首に両手をかけゆっくりと絞めて…。
────
「はっ…!?」
失神してしまったのか、気付けば部屋が真っ暗だ。
いつものように、何も処置されずそのままの筈だ。
「えっ…?!え…。」
珍しく、私は部屋着を身に纏いベッドの上に居る。
こんな格好で眠れたのは、数週間くらいぶりだ…。
明日も朝早く…リゼイルに起こされる筈だ。
「もう…寝よう。」
そう呟くと私は再び眠りについた。
────
「…い!!おーい!!エルフ?朝だぞー?」
この起こされ方…懐かしい気がする…。
まだリゼイルが優しかった頃の起こし方だ…。
ん?
何かこの場面、私は知っている気がする。
確か…リゼイルが朝メシ食いに行こうぜと…。
「エルフ!!早く、朝メシ食いに行こうぜ?」
えっと…えっと…。
やっぱり、この場面…。
「昨日、エルフの魔法の特訓に夜遅くまで付き合ったせいでさ?腹減り過ぎててダメだ…。」
よく知ってる…。
「ゴメンゴメン…。私もお母様達の役に立ちたくて…。このまま食堂行っちゃう?」
珍しくリゼイルが賛成してくれて…。
部屋着のまま食堂に行っちゃうんだったよね…。
「ああ。俺、腹減り過ぎてるし…このまま行っちゃおうぜ?」
「うん!!」
今日は…私が通信機でユカさんと通信したあの日。
一体、どういうことなんだろう…。
「ねぇ、リゼイル?今日、何か変じゃない?」
「ん?今日はエルフがいつもより素直ってこと以外、変じゃないぜ?」
リゼイルは時間遡行したことに気づいてない感じ。
ひょっとして、今回は私だけ…なのだろうか?
まさか…。
リゼイルをシルヴァス先生の部屋に行かせた後悔?
それとも、自分の言ってしまった過ちへの後悔?
でも、これで私とリゼイルの乱れた関係を戻せる。
やっぱり、リゼイルのああいう面は見たくない…。
年齢の背丈にあった恋愛関係で、私は満足なのだ。
「もうっ…!!リゼイルのバカ!!」
「エルフのそういう照れちゃうところ、可愛いよ。」
そう言えば、こんな場面は以前なかった…。
どうやら、私の知らない未来が進み始めている…。
私以外に…時間遡行した者が存在するのだろうか?
どちらにしても、私にとっては喜ばしいことだ。
先の見えない絶望的なあの状況から、逃げられた。
時間遡行を使った誰かに、今回ばかりは感謝だ。
────
朝食を食べた私たちは、寮の部屋へ向かっていた。
すると、部屋の階の廊下が何やら騒がしかった。
「何だろうな?」
「何だろうね…。でも、騒いでるの…女子生徒じゃない?」
この階は、女子生徒の比率が多い。
その為、この階の男子生徒は許嫁が居る者限定だ。
リゼイルと私は学長の計らいで、同室を許された。
「あー。男の先生でも入るんじゃないのか?」
確かに…その可能性は大いにある。
この英雄学校、男の先生の在籍数が非常に少ない。
年齢では高齢なリゼルディアさんですら…人気だ。
部屋に女生徒を連れ込む瞬間を…何度も目撃した。
リゼイルに、そのことはまだ伝えられていない。
そんな父親の姿なんて、知りたくないだろうし…。
「ねぇ?騒がしいけど…一体、どうしたの??」
「あのね!!エルフちゃん!!若くて格好いい男の先生が…今日着任するんだって!!」
同じクラスの女子生徒に声をかければ案の定…。
「はぁ…!?そんな話、俺…父さんから聞いてないぞ??」
そっか…。
リゼルディアさんは副学長と兼任の先生だった…。
迂闊な行動しすぎるので…学長には話しておこう。
「どんな先生か…実際に見れたってこと?」
「廊下歩いてたら…声かけられたの!!でね…?エルフちゃんのこと探してたの!!」
急に…リゼイルから痛いくらいの視線を感じる。
若い男になんて、知り合いなんて居ないしなぁ…。
「その人って、私みたいなエリンダルフだった?」
「ううん?人間だった!!そっか、転移してきたエルフちゃんに…人間の知り合いなんて居ないよね!!」
勿論、クラスの子達は私の編入経緯を知っている。
「うん…。リゼイルくらいしか、人間の男性なんて私…知らないし…。」
「確かにそうだよな…。エルフ、疑ってすまない!!」
私が関係する異性の話になると毎度こんな調子だ。
それにしても、その先生とは一体誰なのだろう…。
「どんな感じの先生だったか、特徴分かる?」
「えっと、ねぇ…。あ!!」
クラスの女子は急に寮の廊下の先を指差した。
よく見ると、向こうから人影が近づいてきている。
だが、まだ早朝の廊下は薄暗くて見えずらい…。




