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エルフさん♀には秘密が多い  作者: 茉莉鵶
第4章 青春期 もう一つの未来編
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第37話 鳴り出した通信機


 守護者のユカさんから渡されていた通信機。

 ただの社交辞令で鳴ることはないと思っていた。

 渡されて三ヶ月、これまで一切音沙汰なかった。

 何故急にという気持ちの方が大きかった。


 「なぁ…エルフ?それ、鳴ってるぞ?」


 「うん。どう使うか…私、聞いてないんだよね。」


 ──ピピッ!ピピッ!ピピッ!ピピッ!


 さっきよりも音の間隔が狭まってきている。

 今日まで、殆ど眺める程度しかしなかった通信機。

 もし壊したら…と思い慎重になっていたのだろう。

 でも、今のこの状況だ。

 とりあえず、突起部を色々触って試すしかない。


 「なぁ…なんか読めない文字書いてないか?」


 通信機を裏返したリゼイルが何か見つけたようだ。


 「え?ちょっとリゼイル、見せてみて?」


 「ほら。」


 リゼイルが私の目の前に通信機の底面を向けた。


 「えっ?!この通信機の使い方、書いてある!!」


 「…ん?俺、こんな文字見たことないけどな…。」


 リゼイルがそう言うのも無理もない。

 底面に書かれていた文字は、正しく日本語だった。

 守護者のユカさんはやはり…日本人なのだろうか?

 何れにしろ、彼女には色々聞かなければならない。


 「そ、そうなの…?リゼイルにも読めない文字ってあるんだね…。」

 

 底面には簡易的に使用説明が書かれていた。

 それによれば、表面には蓋が嵌っているようだ。

 画面の保護の為、付けられているようだ。

 宇宙船同士の戦闘があると考えるとそれも頷ける。

 脱出時に破損し、通信出来ないのは致命的だろう。


 そうだ…。

 ユカさんは、私が男児の時の姿しか知らない。

 いきなり私が通信機に出たら恐らく驚くだろう。

 それに、今は寮の私とリゼイルの部屋の中だ。

 だから、リゼイルが側に居る。

 絶対に今は私の正体をバラされたくはない。


 ──カシュッ…


 最初、上に引いたが蓋は開かなかった。

 よく見ると通信機の蓋はスライド式だったのだ。

 強い衝撃が加わった際、蓋が外れないようにか。


 通信機の画面を見ると、思い切りスマホだった。

 日本語で『ユカ』、『着信中』と表示されている。

 その下には『受話』、『終話』の表示が見える。

 受話はタップ、終話はスワイプで操作するようだ。


 こんな仕様ならもっと早く使っていればよかった。


 「リゼイル?少し守護者とお話するから静かにしててね?」


 「あぁ…。」


 水を得た魚のように私が通信機を操作している。

 その姿を見たリゼイルは呆気に取られていた。


 ──ピッ!


 「…。」


 通信機の画面の受話ボタンを押した私。

 ユカさんの出かたを伺うため、少し黙っていた。


 「もしもし?」


 「…。」


 「もしもーし?」


 もう…私は、噴き出して笑いそうになっていた。

 だけど、グッと堪えて口元をプルプルさせていた。

 まさか『もしもし』がこの世界で聞けるなんて。

 しかも…この世界の人間の言葉でだ。

 それは全く、予想だにもしなかった。


 「はい、アヴィルナです。ユカさんですか?」


 会話の内容を…リゼイルに聞かれたくない。

 そんな思いから、私は…最初から日本語で応えた。

 シルヴァス先生を演じる母親のように声を低めで。


 「はぁ?!なんでだ…??」


 やはり、通信機の向こうでユカさんが驚いている。

 無理もないか。

 あの時、明らかに私はエリンダルフの容姿だった。

 それに…。


 「何故…お前さんは、私の母国語を言葉を話せるのだ??」


 それに…私はユカさんを前にして、日本語について分かるような素振りを一切見せぬまま、前回別れた。


 「あははは!!もう…ユカさん、私を誰だと思ってます?エリンダルフの魔法使いですよ?」


 「あぁ…そうであったな。お前さんがエリンダルフだということを忘れていたぞ。だが、この言葉は大災時代のエリンダルフしか知らんのだがな…?」


 おいおい…。

 私の知らないエリンダルフの新情報が飛び込んだ。

 大災時代のエリンダルフは日本語が分かるのか…。

 一体、私のお祖父様やお祖母様は…何故なのだ。

 全くと言って、大災の話をして頂いていない。

 リゼイルの家で、お祖父様の偉業を知ったほどだ。


 「私のお祖父様は大災の英雄でして…。」


 「そうなのか!?それは失礼した。ところで、さっきから気になっていることがあるんだが…。聞いても良いか?」


 ドキッとした。

 男っぽく喋るように、私は精一杯努力をしている。

 通信機越しなので、そう簡単にはバレることはないと考えていた。


 「はい。ユカさん、どうぞ…?どのようなことなのでしょうか…?」


 「前回と比べて、お前さんの声…高くなってないか?」


 やっぱりか…。


 「えっと…はい。あれから色々ありまして…。」


 魔法で性転換したことにはとりあえず触れずに…。

 問い詰められたら、話すことに決めた。


 「ああ。あれから少し成長したということか?ん…?だが、お前さん男だったよなぁ…?声が高くなるのは変ではないか?」


 ベッドの上で私はユカさんと通話をしていた。

 それをリゼイルは隣で見守っている。

 時折、私の身体を触ってちょっかいを出していた。


 「色々あったんです…。色々と…。」


 「やっぱりな?何か隠していることがあるだろう?凄く怪しいぞ?」


 今すぐにでもこの通話を切ってしまいたかった。

 だが、あの宇宙船に乗せてもらえれば移動が楽だ。

 クゥイルデからエリンダルフまで容易いだろう。

 だからユカさんを無碍にすることはしたくない。


 「隠していること…ですか。」


 「ああ、そうだった!!その通信機、お互いの姿を映し合える装置が付いている最新機でな?ついでだ、試しに使ってみるか?」


 まさかのビデオ通話機能付き?!

 通信機の画面上部を見ると…カメラらしきものが。

 最新機という話だが、十年位前のスマホ感がある。

 でも、こんな異世界で通話するとは夢にも思わず。

 しかも、日本語でビデオ通話する羽目になるとは。


 異世界に転生したのが夢ではと、一瞬頭を過ぎる。

 あの状況で、生きていられる訳はないのだが。


 「では、切り替えるぞ?良いか?」


 「少しだけ…待って下さい!!」


 このままではリゼイルが映ってしまう。

 慌てて通信機をベッドの上に伏せて置いた。


 ──スタッ…


 私はそのままベッドの上から床へと降りた。

 口元に人差し指を当て、リゼイルを手招きした。

 リゼイルは私の様子を見て何か喋ろうとした。


 「シーっ…。」


 慌てて私はリゼイルに向けて声を発した。

 するとリゼイルも何か察してくれたようだ。

 大人しくベッドの上からそっと私の隣へ降りた。


 ──ギュッ…


 そのままリゼイルの手を私は握ると部屋の外へ。


 ──バタンッ…


 「リゼイル、急に…ゴメンね?」


 部屋の扉の外で、小さな声でリゼイルに詫びた。


 「一体、あんな慌ててエルフどうした?」


 「あの機械、こっちの姿を相手へ映せる装置が付いてて…。」


 「ああ、何となくわかったぞ?俺がエルフと一緒に映ると都合が悪い感じか?」


 全くリゼイルの言う通りだ。

 色んな意味で、私にとって都合が悪すぎるのだ。


 「ゴメンね…?実はそうなんだよね…。色々聞いてきて面倒な人で…。」


 「そうか。なら少し、シルヴァス先生のところ行ってくるからさ?終わったら来いよ?」


 「うん。リゼイル、ありがとうね?」


 詮索することもせず、リゼイルは歩き始めていた。

 本当にいい男だと思った。

 時間遡行前とは、リゼイルの感じが違うのだ。


 そんなリゼイルに私の身体の真実は絶対言えない。

 だからこそ、今のこの状況は切り抜けなければ。


 ──バタンッ…


 「ユカさん、お待たせしました。」


 「騒がしかったが、もう大丈夫なのか?」


 「はい、大丈夫です。」


 「そうか。では、切り替えるぞ?」


 通信機の画面に、ユカさんの姿が映し出された。


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