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エルフさん♀には秘密が多い  作者: 茉莉鵶
第4章 青春期 もう一つの未来編
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第36話 副学長就任


 「今日は、新任の学長代理を紹介する。『剣塵』のリゼルディアだ。」


 英雄学校の全校生徒が講堂に集められていた。

 その前で、学長が紹介を行った。


 『時間遡行』前はこのようなことはしなかった。

 教師の詰所で、リゼルディアさんの紹介をするに留めていた。

 あの時は、時間があまり残されていなかった。

 それに…直ぐにでも行ける準備が整っていた。


 今回、このような運びになった大きな要因がある。

 それは、生属性魔法の本が未だ見つかっていない。

 もう…英雄学校に編入して二ヶ月ほどが経つ。


 シルヴァス先生ことアヴィエラお母様は、一体どこであの本を発見したのか?

 それが、私たちの中で一番の焦点となっていた。


 「学長より…ご紹介に与りました、リゼルディア=ゲルシェルトです。以前、剣士をしておりました。これからは、学長代理とお呼びください。宜しくお願いします。」


 そうだ、話を戻そう。

 リゼルディアさんが軽く自己紹介を行った。

 本人は謙遜気味に話しているが、腐っても鯛だ。

 やはり、剣士志望の生徒たちの目は輝いている。


 「古い話で知らない者も居るかもしれんので、お前さん達に言っておく。私と学長代理はな?共に大災を生き抜いた。未だ…侵略者からの攻撃は絶えぬ。最近ではまた魔族と手を組んでいるとも噂されておる。だからこそ、最前線で戦う前衛の技術向上が必要だと私は感じ、旧知のリゼルディアに今回、学長代理兼教師をお願いしたのだ。」


 最もらしい学長の演説だ。

 戦地の最前線で動ける前衛が不在の場合、前線を突破され総崩れになりかねない。


 「はぁ…。父さんが剣術の先生とかさ…。」


 私の隣でリゼイルが深くため息をついている。

 実の親が教師と言うのはとても緊張するものだ。

 私もそうだからだ。

 シルヴァス先生の事を、母親と意識せずにいられたあの頃を懐かしく思う。


 「うんうん。わかるわかる。」


 「ああ、そうだったな…。でも、周りからの重圧が違うんだよな…。俺の場合、子供だからさ…。それに、エルフの場合…アヴィンさんはこの英雄学校には居ないしさ?」


 子供と孫では確かに、期待度が違うかもしれない。

 それに、編入時にリゼイルは剣士を自称している。

 それ故、周囲からの期待も大きいのだ。

 まぁ、そんな私も魔法使いを自称しているが。


 「でもね?リゼルディアさんから直々に教われるなんて凄いことだよ?私なんて、お祖父様には小さい頃…属性の適性を調べてる時、魔法の教本を見ながら教わっただけだからね?」


 アヴィンは水属性に適性がある。

 それに加えて、”元“許嫁のエルミリスも水属性だ。

 私の今の状態では同性同士になってしまう。

 だから…とりあえず“元”としておく。

 アヴィンの興味は、同属性のエルミリスにある。

 シルヴァス先生こと母親のアヴィエラも水属性だ。

 ユリエナお祖母様はと言うと、火属性なのだ。

 学長も火属性で思い切り被っている。


 「はぁ!?なら…普通に使えてる毒属性魔法は、独学なのか?」


 「うん。」


 「やっぱり、エルフはすげぇな…。」


 何だか知らないがやけにリゼイルが感心している。


 「…というわけで、今日の集会は終わりだ。」


 いつの間にか学長による紹介が終わっていた。

 リゼイルの顔を見ると、浮かない表情のままだ。


 「まぁまぁ、リゼイル。頑張ろ?」


 「おう…。」


 やる気なさげだが、私の言葉には反応してくれた。


 「さぁ!部屋に戻って、授業の支度しないとね?」


 いつもは、学校が始まってから集会は行われる。

 だが今日は急遽、早朝に集められていた。

 その為、皆寝巻きや私服姿が目立つ。

 私たちはシルヴァス先生に、起こされたくらいだ。


 「腹減ったなぁ…。まず先に食堂行かね?」


 「みんなリゼイルと同じこと考えるだろうから、きっと食堂混むと思うよ?先に支度してからの方が良くない?」


 「確かに…。じゃあ、エルフの言うとおりにする。」


 最近のリゼイルは、やたらと私の言う事を素直に聞くようになった。

 だから、私が嫌といえばやめてくれるのだ。


 「リゼイル、えらいえらい。」


 「…馬鹿!!こんな人前で、照れるだろうが!!」


 周りの同級生達がリゼイルの姿を見て笑っていた。



────



 副学長にリゼルディアさんが就いて一ヶ月経った。

 前衛系を目指す学生達の剣術の腕は、以前と比べると見違えるようになってきた。

 流石、英雄と呼ばれるだけはあるようだ。

 これまで、リゼルディアさんが剣を振るうところを見たことはなかった。

 そのリゼルディアさんの太刀筋を見て私は気付く。

 リゼイルの太刀筋と同じ軌道を描いていたのだ。


 やはり親子なのだろう。

 リゼイルは筋が良いのかも知れない。

 恐らくだが、大災を共に戦った学長だ。

 剣術の授業でリゼイルを見て、気付いたのだろう。

 敵が多く潜むエリンダルフへの長い道のりだ。

 普通、その前衛をリゼイルだけに任せないだろう。

 何か感じ取ったに違いない。


 「なぁ…エルフ?さっきから何持ってるんだ?」


 私はリゼイルと寄宿先の寮の部屋にいた。


 「これ?リゼイルには絶対使い方分からないと思うよ?」


 そう言って私は、縦型のお弁当箱くらいの大きさの端末を、リゼイルの目の前へと出した。

 ユカさんから私へと手渡された通信機だった。

 かれこれ、墜落事件から三ヶ月は経っている。

 だが、未だに彼女からの連絡は来ていなかった。


 「何なんだ…?この…箱みたいな機械は。」


 「リゼイル、気になる?」


 「ああ…。恋人が大事そうに持ってる姿見れば…気にならないわけないだろ?」


 いつもはリゼイルの見ていない時に確認している。

 だけど今日は、そのいつもとは違っていた。

 朝からリゼイルは、私にべったりだったのだ。

 だから私は、彼の居る前で確認するしかなかった。


 「えっと…。この機械にね?エリンダルフの守護者から連絡が来るんだ…。近くに来たとき、私に用がある場合だけだけどね?」


 「エリンダルフの守護者って…何だ!?」


 あれ…?

 リゼイルは守護者の事を教えられていないのか?


 「本当に…守護者のこと、お父様から聞いてない?」


 「悪い…。俺は、知らない…。」


 やはり、エタルティシアとエリンダルフとの不仲説は濃厚となった。

 聞いてないのではなく、知らないのかもしれない。

 上層部のエタルティシアによる情報統制が、クゥイルデの街に敷かれてても不思議ではない。


 「そっか、知らないんだ…。」


 「なんか…俺が聞いちゃマズいことだったか?」


 「うーん…。リゼイルはエタルティシアだし、知っていた方が良いと思うんだけど…。」


 そう言うと私は、守護者について説明をはじめた。

 当の私も、あまりよくは知らないが。



────



 「なんか…俺たちエタルティシアと人間は、エリンダルフに色々と大きく離されているってことは分かった。それにしても、守護者に知り合いが居るなんて…エルフは凄いよな!!」


 今のエリンダルフと守護者の関係について、リゼイルは理解したようだ。

 エリンダルフは守護者の技術で凄い発展を遂げた。

 この世界に転生した際、何も違和感がなかった。

 それくらい、地球の文明レベルに肉薄している。


 それに比べて、人間の街の文明レベルは中世だ。

 古きを守りたかったのかもしれないが…。

 侵略者の文明レベルは守護者に匹敵するようだ。

 恐らく、今の侵略者が本気を出せば、人間の街はひとたまりもないだろう。

 だからこそ、学長は陰ながら障壁を街へ張り巡らせているのだ。


 「これに反応があったら、リゼイルも一緒に会話してみようね?」


 「え、良いのか…?」


 「リゼイルのこと、ユカさんに紹介しないと。」


 ──ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!


 そんな時だった。

 縦型のお弁当箱のような端末から音が鳴った。

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