第35話 レティア先輩
あっという間に、英雄学校に来て一ヶ月過ぎた。
そういえば、生属性魔法の本の所在についてだ。
アヴィエラお母様が探しているが見つからない。
学長に聞いても、存在を知らないとのことだ。
あの時の先生は、どこで見つけてきたのだろう。
どこにあった、ちゃんと聞いておくべきだった。
あれだけ堂々と持ち出していても、持ち出し禁止にも拘らず、何も問題が起きなかった。
となると、今は適切な管理する者が居ないのか?
そんな事を思いながら、リゼイルとの学校生活を楽しんでいた。
「…フ?おーい??エルフ?」
「あ…。リゼイル、ゴメンね?私のこと呼んでた?」
実は今、食堂でリゼイルと昼食中だったのだ。
あの本が見つからないことには、何も始まらない。
当のリゼイルも、あの時言われて試しただけだ。
なので何一つ覚えていないようだ。
だから、エリンダルフの街へ旅立てないのだ。
「いや…大したことじゃないんだけどさ…。」
「そうなんだ。」
ふと手元に目をやると、お昼ごはんが手付かずだ。
やはり、考え事は食べ終わってからすべきだ。
「あのさ…。俺、やっぱりエルフともっと…。」
「良いよ?私もリゼイルに言おうかなって、考えてたとこだったから。」
「本当に…良いのか?俺で後悔しないか…?」
何故だろう?
リゼイルがいつもの調子ではなさそうだ。
「もし、私がリゼイルのことが嫌ならね?この一ヶ月、毎日同じ部屋で生活してないよ?」
「確か…エルフには許嫁、居るんだよな?エリンダルフの街に。」
リゼイルの表情が晴れないのはそこか。
どうしてだろう。
私を取り巻く背景を知って、尻込みしたのか?
「いつものリゼイルらしくないよね?」
「俺だって悩むことだってある…。俺とエルフは種族も違うわけだしさ…。」
リゼイルは純粋なエタルティシア。
私は異星人とのハーフかも知れないエリンダルフ。
クゥイルデの街の住民はといえば人間だ。
その人間は、二つの種族の血を引くハーフなのだ。
その為、先祖返りが起き魔法が使える者もいる。
寿命について言えば、全く長命ではない。
街で長生きと言っても、せいぜい100歳程度だ。
「それにさ…。エタルティシアとエリンダルフの間に子供って殆ど出来ないんだってさ…。偶然出来たのが人間な訳で…。」
「私、別に…子供が欲しくてリゼイルと一緒に居たいわけじゃないよ?だから、それについてはあまり深く考えていないから!!」
言っているうちに、ふと思ったことがあった。
リゼイルは家の跡取りについて考えているのか?
あまり深く考えたことはなかった。
よく考えれば、前世で私は死んでしまっている。
私の家は、兄弟がいない。
今のリゼイルと似たような家族構成だった。
だが、決定的に違うところがある。
エタルティシアは長命故、いつでも子を成せる。
エリンダルフに置き換えれば、祖父母が良い例だ。
前世の私の家は、両親の代で潰えてしまうのだ。
そう思うと、リゼイルの気持ちも分からなくない。
「良かった。俺、エルフは子供欲しいのかなって…。」
「ううん…。私はリゼイルと一緒に居られれば、どっちでもいいよ。」
それに…今の私の身体は普通とは違う。
魔法の『性別転換毒』の効果で女性になったのだ。
とりあえず、先日生理はきたので少しホッとした。
この身体、見かけだけではないようだ。
「ああ…。マズい、エルフ…ゴメンな?俺、話に夢中でここが食堂だって忘れてた…。」
そうだった。
私も会話に夢中になっていが、今はまだ昼食中だ。
周りを見ると、リゼイルの謝る意味が理解できた。
私たちは、生徒達からの視線を集めていたのだ。
「早く、お昼食べちゃお?」
「ああ。そうだな…。」
少し気まずいが、とりあえず昼食を食べ進めた。
────
「あなた達、見かけない顔だけど…?」
一人の女生徒が、私たちの背後から近づいてきた。
聞き覚えのある声だった。
すると、私たちの机の空いている席へ腰掛けた。
「あ。」
その姿に、リゼイルが思わす声を漏らした。
髪は金色、目は緑色、肌は小麦色の長身だ。
制服はといえば、上級生の色だった。
「はい。私たちは一ヶ月前に編入してきました。」
白々しくも、私は前に座るレティアにそう言った。
まさか、レティアのほうから接触してくるとは。
「私はレティア。あなたは?」
「私は、エルフ=リーデランザと申します。レティア先輩、宜しくお願いします。」
レティアは人間ながら魔法使いを志している少女。
だからリーデランザの名を出しておけば問題ない。
「り…リーデランザ?!あなた、もしかして…『氷塊』様の関係者!?」
「はい。『氷塊』のアヴィンは私の祖父です。」
私の言葉で一気にレティアの目の輝きが増した。
確か、この頃はまだ魔法に触れられていない筈だ。
「隣の…あなたは…?」
レティアは意識したようにリゼイルに話しかけた。
まぁ、『時間遡行』前、リゼイルと恋仲になった。
だが、結局リゼイルは私の下へと戻ってきたが…。
「ああ、俺?リゼイル=ゲルシェルトだ。エルフの恋人してるんだ。」
レティアに、お前には脈はないと言わんばかりだ。
「そっか。あなた達二人、付き合っているんだ…。」
とても残念そうな表情の後、私を睨みつけてきた。
今回は、友好的な関係を築けないかもしれない。
「別に、校則で禁止されてるわけじゃないしな?んで、レティア先輩は俺たちに何の用だ?」
「この席、私がいつも使っている席なの。退いてくれない?」
そうか。
ここは、私とレティアが使っていた席だったのだ。
でも今は同居人でも何でもない。
接点ゼロの状態でお気に入りの席を使っている。
それにはリゼイルも気が付いたようだった。
「悪かった。俺たち、この席がレティア先輩のお気に入りだって知らなかったんだ。すぐに退くからさ?」
私もレティアに頭を下げた。
昼食が乗ったお盆のようなものを持ち席を立った。
もう、レティアと接することはないだろう。
そう思いながら、リゼイルと食堂を見渡していた。
今日は食堂が混み合っていて丁度いい席がない。
「リゼイル、席なさそうだし…もう部屋に戻ろ?」
「まだ、全然食べてなかっただろ?良いのか?」
まだ私は昼食に殆ど手をつけていない状態だった。
席が空いていないのだから、仕方がないことだ。
「うん、大丈夫。行こ?」
お盆のようなものを持ち私は席を離れようとした。
「…待って!!」
確かに今、レティアはこちらに向かいそう言った。
「え…?あの…どうされました?」
「あなた、アヴィン様のご令孫ということは…エリンダルフなんでしょう?」
お?
これはひょっとしたら、ひょっとするぞ?
「はい。一応、エリンダルフです。魔法使いをしております。」
レティアの求めている答えで先手を打ってみた。
「エルフちゃん、可能であればなんだけど…。私に魔法を教えてくれないかな?」
「ま、魔法…をですか!?べ…別に、私の方は良いのですが…。」
「何か、不安なことでもある?」
少しだけ…勿体ぶってみることにした。
決して、レティアに教えたくない訳ではない。
「はい。英雄学校では、特別に放課後…有料で魔法の授業をしているので…。教えていることがバレて、私が怒られたりしないかなと…思いまして。」
「私の学級でも、放課後になると個別で得意な科目を教え合っているのを見るから…大丈夫じゃないかな?」
まぁ、私が怒られることはないだろう。
学長とは、秘密を共有している間柄だ。
それに…今回も学長は私の旅の仲間でもある。
「そうですか…。それならば、よろこんでお教えいたします。」
「ありがとう!!なら…これからはお昼は一緒に食べましょう?」
こうして、私たちはレティアと再び縁が生まれた。




