第33話 シルヴァス先生
「ほら、よーく聞け?まずは…『剣塵』リゼルディアの息子のリゼイルだ。」
「リゼイル=ゲルシェルトと申します。宜しくお願いします!!」
例によって、英雄学校の教師達の詰所に居た。
寮の部屋に着き、私たちが荷物を置くとすぐ、学長に連れ出されてきた。
教師達も、各々の部屋から学長に呼び出された。
あと、ゲルシェルトの名前を久しぶりに耳にした。
英雄学校では、名前で呼び合う決まりだからか。
それに『剣塵』と聞いても皆の反応はイマイチだ。
リゼルディアさんをよく見かけるからだろうか?
「まぁ、そうだな…。リゼルディアはよく街で見かけるよな?でも次は…きっと驚くぞ?あの『氷塊』アヴィンの孫娘のエルフだ。アヴィン同様に魔法使いのようだぞ?」
リゼイルへの反応の薄さを警戒したのであろう。
学長が私が魔法使いであることを、教師達に紹介してしまったのだ。
前回同様、教師達の間でどよめきが起き始めた。
「初めまして。私はエリンダルフから来ました。エルフ=リーデランザです。宜しくお願いします。」
その教師の中に、シルヴァス先生の姿も見えた。
表情は見えないが腕を組み嫌疑心一杯な雰囲気だ。
「エルフさん?『氷塊』様は水属性の適性をお持ちでしたが、あなたは何属性の適性をお持ちなのですか?」
一人の教師が私に声をかけてきた。
言語担当のルスラ先生だ。
どの属性を話すべきなのだろうか。
私は戸惑ってしまった。
「ああ。エルフは毒属性の適性なんだとさ?」
学長は私の様子を感じ取ったのだろう。
機転を利かせてくれたようだ。
「ど、ど、ど、毒…ですか?!」
見たことのある光景が目の前で起きた。
ルスラ先生はあまりの驚きに腰を抜かしたのだ。
「エルフはエリンダルフだぞ?いくら大災で失われた毒属性魔法とはいえ、なくはない話だろう?」
教師達は学長の言葉に納得し始めた。
だが、シルヴァス先生だけは信じていない様子だ。
────
それから、教師達の紹介が学長からされた。
この教師達の授業は、一年以上受けている。
皆、見知った顔ばかりだ。
「あの…シルヴァス先生?」
前回、シルヴァス先生の因縁はここから始まった。
だから、今回も私は同じような場面を演出する。
「はい。なんでしょう?」
「シルヴァス先生の魔法の適性は、何属性なのですか?」
「ボクですか?ほら。見ての通り水属性ですが?」
シルヴァス先生は『時間遡行』対象外だったのか。
私の目の前で、前回と全く同じことをして見せた。
それに、私にかなり敵対心剥き出しのご様子だ。
「シルヴァス先生が水の玉を出す様子を見ていたら、エリンダルフにいる親友のこと思い出しましたよ。」
「へぇ…?エルフさん、本当にエリンダルフのご出身なのですかぁ?」
悲しいくらいにシルヴァス先生は、同じ台詞だ。
どうしたら良いのだろうか。
本人の前で母親の名前でも出せば良いのだろうか。
「シルヴァス?これから私の部屋に来い。エルフとリゼイルも一緒にな?」
「あの…。えっと…。」
シルヴァス先生が困る場面は一緒のようだ。
学長の部屋で、色々話せば済みそうだ。
「それじゃあ、編入生の紹介はおしまいだ。お前さん達、休んでるところ急に呼び出して悪かったな?ほら、シルヴァスとエルフ、それとリゼイル。行くぞ?」
私たちは学長に急かされるように、教師達の詰所を後にした。
ところが、シルヴァス先生の足どりが非常に遅い。
嫌々ながら学長について来ている雰囲気だ。
「シルヴァス、何が不満だ?」
廊下を歩きながら、学長はシルヴァス先生の居る後ろを振り向いて声を掛けた。
「学長はどうして、こんなにも怪しい者を…入学させたのです?」
シルヴァス先生からすれば、母親そっくりの見知らぬ少女がリーデランザを名乗ればそう思いたくもなるか。
しかも、エルフという知らない名前なら尚更か。
「どこからどう見てもエルフは、アヴィンの妻ユリエナにしか見えないんだがな?」
明らかに学長は、シルヴァス先生を煽っている。
お前の母親に瓜二つだろうと言わんばかりに。
「そ…それは。」
何か言い掛けたシルヴァス先生は、口を噤んだ。
思わず、言いそうになってしまったのだろう。
アヴィン達の孫は、アヴィルナという少年だと。
「ん?まぁ良い。中で話そうじゃないか。」
気付けば私たちは学長の部屋の前まで来ていた。
────
「さぁ、そこに掛けてくれ。うーん、まずは何から話そうか…。」
学長の部屋に通された私たち三人。
机を挟み対面に置かれた二人掛け椅子へ腰掛けた。
私とリゼイル、学長とシルヴァス先生で分かれた。
「ああ、そうだ!!」
急に思い出したかのように学長は大声をあげた。
そして、シルヴァス先生の方へと顔を向けた。
「なぁ、シルヴァス?いや…アヴィエラ=リーデランザと言ったか?」
ここまで冷静な態度を貫いていたシルヴァス先生。
だが、その態度も学長の一言で一変してしまう。
「えっ?!が、学長!?ど、どこでそんな情報を!!」
「まさかな…アヴィエラ。お前さんが、あのアヴィンと…ユリエナの娘とは知らなかったぞ?」
学長の言葉を受け、シルヴァス先生は急に構えた。
シルヴァス先生から凄まじい殺気が出ている。
今にも魔法を学長に向けて放ちそうな雰囲気だ。
「おいおい…。まさか『障壁』持ちのこの私に、魔法で勝てるとでも思ったか?それに、私たちはお前さんたちの計画を邪魔する気は全くない。逆に、助けてやりたいと思っている。」
英雄学校に張られた強力な障壁は学長の自信先だ。
自らにも何らかの障壁を張っていない訳がない。
それに母親は水属性の適性しか持っていない。
恐らく、リゼイルや私程の脅威ではないのだろう。
こんなにも早く、計画の話を振るのは当然の話か。
「計画…だって?!そんなのハッタリです!!学長はボクを陥れようとしているのですか!?」
「ん?ここに居る、お前さんの娘のエルフことアヴィルナが教えてくれたからな?生属性の適性者を探しているのだろ?」
私の本名を学長はシルヴァス先生に向け言い放つ。
すると、シルヴァス先生は驚いた表情で私を見た。
「なるほど…?ボクの目の前に居るのが、アヴィルナなのですか。では、キミがアヴィルナだという証拠をここで示すことが出来ますか?」
そうきたか。
ただ私の性別については何も言及してこなかった。
まぁ、シルヴァス先生からしてみれば…当然と言えば当然のことだろうか。
それに、確固たる証拠なら、今回の私は持ってきていた。
リゼイルと学長は心配そうな表情で見守っている。
「では…シルヴァス先生。この…手記に見覚えはありませんか?」
私が母親の部屋で入手した、母親の残した手記。
それを、シルヴァス先生の目の前へ差し出した。
「これはっ!?一体…どうやって、キミはあの…猛毒が仕掛けられている部屋に入ることができたのです??」
「先程、自己紹介した通り…私は毒属性の適性者です。だから、学校の記念公園の森に巣食うスパルディンの毒であろうと効きませんよ?」
例え今嘘を言ったところで、何も先には進まない。
それに、もっと言うべきことは沢山あるのだ。
「そうなのですね…。とりあえず先程の話は信じましょう。ですが…少しキミとは、後で話をしなければなりません。学長、後程アヴィルナをお借りしても良いでしょうか?」
私について、シルヴァス先生は聞きたいらしい。
自分の可愛い息子が、娘になっていればそうか。
それにしても、かなりの日数の短縮になった。
前回ではここまでくるのに、一年以上かかった。
「そうだな。親子水入らずで話すと良い。」
学長はニヤリとほくそ笑んだ。




