第32話 学長♀との再会
リゼルディアさんに案内され、家の外へ出た。
こんな時間に英雄学校に行って平気なのだろうか。
そのくらい、外は夕方から夜へ変わりかけていた。
今更ながら、この世界にも朝昼夜が存在する。
太陽系惑星に近い構成のようで、一応季節もある。
この世界が地球の並行世界なのかもしれないが。
リゼイルの家の裏側まで前回と同じくやってきた。
そこで、英雄学校に繋がる転送門を使用した。
前回はこの行為に、私は何も疑問に思わなかった。
だが、前回を振り返って気付いた事があった。
学長とリゼルディアさんが、未だ交流あった事を。
「ほら、小僧!!先に入れ!!その次に、エルフちゃん入ろうね?」
「はいはい。分かったよ!!」
──シュンッ!!
リゼイルが転送門に入ると、身体が瞬時に消えた。
この先に入れば、霧のような靄のある場所に着く。
「じゃあ、一緒に入ろうか?怖くないよ。」
リゼルディアさんもアヴィン同様底抜けに優しい。
私はリゼルディアさんに手を取られ、門へ消えた。
──シュンッ!!
転送門を抜けると、霧も靄も何もなかった。
それ以上に驚いたのは、学長が目の前に居たのだ。
「全く。どこまで行ってきたんだ?お前たち。」
「えっ?!」
「な?びっくりだろ?」
先に転送門を抜けたリゼイルも、やれやれといった表情をしていた。
「おい、ミュレーゼ!!うちのバカ息子とエルフちゃんとは、既に知り合いなのか…?」
かなり驚いた表情をリゼルディアさんはしている。
それもそうだろう。
自分抜きで、大災の英雄で友人と息子たちが知り合いになっていたのだ。
「ああ!!そうだ!!なぁ…?リゼイル。」
この展開には私も予想すらしていなかった。
だが、リゼイルも私同様に、時間遡行前の記憶を有していたので、既に二人目ということもありそれ程の驚きはなかった。
「父さん、黙っててごめんな?俺たち、学長とは知り合いなんだ。」
「どこで…いつ知り合った!?」
まぁ、当然の反応だろうか。
ミュレーゼさんは学長という関係上、なかなか表に姿を現さない。
そんな彼女との接点は非常に希薄なのだ。
「あれは昼下がりの頃だったか。急に不安定な『空間転送』の反応が出たのだ。急いで向かったら、リゼイルとエルフが居てな?聞けばお前さんと、アヴィンの子孫て言うじゃないか。放っておくのもアレだしな?うちの学校に来る気はないかと勧誘したんだ。」
流石の学長だ。
前回、私が来た状況を盛り込んで話を作っている。
「そうだったのか!?全く、ミュレーゼの差し金だったか。うちのバカ息子、英雄学校に行きたいしか言わなくてな?」
先程、家の中でリゼイルが話した内容と同じだったので、リゼルディアさんも信じたようだ。
「まぁ、ここで話すのもなんだ。私の部屋まで行こう。」
──ギィィィィッ…
学長はそう言うと、真っ白な壁に囲まれた部屋の扉をゆっくりと開いた。
────
かなり見慣れた部屋の中で私たちは話していた。
今朝も似たような面子で、この学長の部屋に集まっていた。
この中で記憶があるのは、私とリゼイルと学長だ。
「なぁ?リゼ。お前さん、学長補佐やる気はないか?」
あまりにも唐突すぎる。
この様子だと学長は、今朝の続きを直ぐにでも実行に移したいのだろう。
事情を知るリゼイルですら、呆気にとられていた。
「ん?ミュレーゼ。学長補佐って…私が?」
「悪くない話だと思うが?昔のよしみで、どうだ?やらんか?」
学長、タイムアタックでもする気なのだろうか。
前回より、展開が凄まじい程に早い。
「父さん!!絶対、母さん喜ぶって!!すみません…学長?このお話ですが、一度家に持ち帰らせてもらっても良いでしょうか?」
咄嗟にリゼイルが口を挟んだ。
実際の話、前回リゼイルの母親は大喜びしていた。
「おい!!小僧、何を勝手に話を進めてるんだ!?」
「まぁ、リゼ。そのくらい良いだろう?きっとリゼイルは、苦労してるレジェイナのこと考えてだと思うがな?良い息子じゃないか!!」
まぁ、リゼルディアさんも時間の問題だろう。
────
そんなこんながあったが、筋書き通り話は進んだ。
私たちの英雄学校への編入が即日決定したのだ。
リゼルディアさんは、学長に言われ一度帰宅した。
理由は、学長補佐の件だ。
レジェイナさんに聞いてこいと学長から煽られた。
今更だが、リゼイルの母親の名前は初めて聞いた。
前回、リゼイルの家を訪れた際、聞いていない。
私の話ばかり盛り上がっていた。
その為、その勢いで英雄学校へ行ってしまった。
だから、レジェイナさんの名を聞く暇が無かった。
「さて…。まずは、エルフからだ。お前さん、どうして前回と違う姿をしてるんだ?ユリエナに…そっくりじゃないか。」
先程、学長は自然体で違和感なく私に接していた。
だが思うところはあったようだが、流石は大人だ。
そんな態度を微塵も周りへ見せることはなかった。
「私の本来の姿はこれなのです。今朝までの姿こそ、異様だったのです。」
「そうだったのか…。私的には、あの姿のエルフの方が好みであったのだがな?まぁ…見た目こそユリエナだが、中身はエルフのままのようだな?強いて言うなら…髪はアヴィンに似たようだな!!」
本当のことを言えば、この姿も偽りなのだが。
リゼイルの居る前で、そんな事言えるわけがない。
言ってしまえば、私の気も楽なのだろうが。
それで、リゼイルの気が変わることはあり得る。
そうなれば、エリンダルフの街への同行は危うい。
「俺は、今のエルフも好きだからな?そう言えば、学長?シルヴァス先生の姿が見えないんですけど?」
私もその事については、ここに来て感じていた。
「ああ、シルヴァスか…。どうやら、リゼと同じく今朝までの記憶がないようだ。だから…またお前さんたちの紹介を教師達の前でするところからやり直しだな。」
少しだけ分かってきたような気がした。
「学長、あの時は門の外には出られてました?」
「ああ。私はエルフの背後にピッタリくっつくように、門から出たからな?」
門の外に居た人に対し『時間遡行』は使われた。
するとだ、ユカさんは相当やらかしたことになる。
私以外の関係ない人達までも巻き込んでしまった。
「それにしてもだ。『時間遡行』なんて、一体誰が使ったんだ。時間を巻き戻すこと自体、この世界では重罪だからな?まぁ、私たちは巻き込まれた側だが。それに、黙ってれば分かりやしないしな?」
「黙っていれば分からないって、それは何故です?」
リゼイルが興味津々で学長に問いかけた。
「ああ。『時間遡行』の利点でもあり欠点は、使った本人は記憶が残らないんだ。ただ、対象になった者は記憶が残るんだがな?何故、私たちなのかさっぱり理由が分からんのだ。」
まさか、私が原因なんて口が裂けても言えない。
今朝まで私があの姿をしていた理由を、皆の前で暴露することになるからだ。
「俺は時間が戻って良かったと思ってる。俺にとってエルフは大事な存在なんだって、再認識出来たからな?出会いもエルフにとって最悪だったと思うしさ?」
「生意気に惚気おって。でもまぁ、これで私もエルフの初めてを奪える機会を得たと言うことだしな?」
全く…。
真剣な話をしているのか、ふざけているのか。
このエタルティシアの二人には、困ってしまう。
「ああ、そうだ。今日からお前さんたちは、私の学校の生徒だったな?もう夜だが、どこか泊まるあてでもあるのか?」
寮の空き部屋を探したりは直ぐには出来ない。
学長にそう言われてしまっても当然だろう。
「いえ、ありません…。まさか、こんな夜に来るとは思わなくて…。」
「そうかそうか!!そう言うと思ってな?私の独断だが、エルフとリゼイルは同部屋にしておいたぞ?優しいだろう?」
その後、学長直々に寮の部屋を案内してもらった。




