第31話 英雄の家
「それにしても、エルフ…さ?今の姿の方が俺、好きだ。」
クゥイルデに続く街道沿いを、私とリゼイルは手を繋ぎながら歩いていた。
急に私の顔をジッと見たなと思えば、それだった。
「ねぇ?リゼイル。前の私と…結構、違う?」
「ああ、全然違うぞ?今のエルフは…凄くお淑やかな感じだな。正直、手を出しづらいな…。いや、可愛いんだけどな?」
お淑やかな感じ…それでピンときた。
恐らく、『性別転換毒』の影響なのだろう。
ユリエナお祖母様の特徴が隔世遺伝で出たのだ。
鏡を見たわけではないので、あくまで想像だが。
「えっと、多分ね?今の私、校長が大嫌いな…恋敵に似てるんだと思う…。」
「いやぁ…アヴィンさんの気持ち、俺…分かるかも。」
おいおい…リゼイル。
なに平然とそんなこと言っちゃってるんだよ。
校長の前では、絶対にやめてもらいたい。
「でも、外見とは裏腹に中身は気が強いんだよ?」
「何言ってるんだよ。それはエルフのお祖母様の話だろ?俺は別に、外見はどうでも良いんだよ。中身がエルフならな?」
これこそ、なに平然と言ってくれてるんだよ!!
事案だった気がする。
それからの道中、照れ臭くてしょうがなかった。
────
──ガチンッ!!
リゼイルが玄関の金属製の扉に鍵を入れて回した。
「なんか、見覚えあるよな?この場面。」
──ギィィィィッ…
扉の取っ手をリゼイルは掴むと、押した。
すると、家の中へ向かって扉が開いていった。
「ただいま。母さん、父さんの旧友のお孫さん、連れてきた!!」
「おかえり、リゼイル。お父さんの旧友ですって?どれどれ…って!?ユリエナ?!…にしては若すぎるわね。このお嬢さんは、アヴィンのお孫さんてことでいいかしら?」
まず、お祖母様の名前が一番先に出た。
と言うことは、さっきの想像は確信に変わった。
やはり、お祖父様の名前がすぐ出てきた。
「初めまして。私は、アヴィルナ=リーデランザと申します。通称『エルフ』と呼ばれております。」
「どうして、エリンダルフのあなたが人間の街へ?」
「はい。魔物との交戦中、私は空間転移の魔法を受けてしまったようです。不意に転移させられた影響で、宙に放り出され落下し意識を失っていたようです。偶然、通りかかったリゼイルさんに介助いただきました。」
前回より、最もらしい返事が出来たと思う。
「あらっ!?エルフちゃんは魔物と戦えるの?」
そうそう、こんなやり取りをしていた。
今回の驚きは、ユリエナは魔物と戦わないのでだ。
「はい!私も祖父と同じ魔法使いをしています。」
ジーッとリゼイルの母親は私の顔を見つめてきた。
「エルフちゃん、うちの子と同じ目の色してる。」
これも聞いた。
でも、リゼイルと私は明らかに違うのだ。
リゼイルはエタルティシアの生属性。
私はエリンダルフの死属性。
生属性から派生したのが死属性なのだ。
「そうなんだよ。俺たち、一緒なんだよ。それに、ここ来るまでに意気投合しちゃってさ?」
基本、リゼイルの母親は前回と似たような内容を話してきている。
こうなると、私とリゼイルが特別なのだろうか?
まさか、リゼイルも『時間遡行』を受けたのか?
ユカさんはうっかりが多すぎる。
だから、門の外に出ていたリゼイルも巻き込まれていないとは、言い切れない。
「また、お前はそう上手いこと言って!!どんだけの女の子達が泣いて出て行ったか!!」
「まぁ、母さん。俺、エルフのご両親とアヴィンさんの許しを得るまで、身体の関係にはならないからさ?」
これが、リゼイルの決意表明なのだろうか。
「分かりました。リゼイル、宜しくお願いします。」
「ちょっと、あなたたち!!もう、勝手に話進めないの!!」
これまでにないセリフをリゼイルの母親は喋った。
徐々に未来が分岐し始めてきているのだろう。
「そうだ!!父さんはいつ頃帰ってくる?」
リゼイルは私に気を遣ってか、話のペースが早い。
ただ、私にとってそれは、ありがたい事なのだが。
「もうそろそろ、帰ってくるんじゃないかしら?でも、一体どうしたの?」
気付けば、リゼイルが私の右手を強く握っていた。
思わず私もリゼイルの左手を強く握り返した。
「俺たち、父さんに相談したいことがあってさ?」
「えっと、俺たちって…エルフちゃんもなのかい?」
確かに、この場合は俺たちにはなるのだろう。
私とリゼイルが、英雄学校に行きたいという話だ。
「ああ、エルフも関係ある大事なことなんだ。」
「何なんだろうねぇ…。でもお前、エルフちゃんとは出会ったばかりなんだろ?」
ただそこを突っ込まれると、少し弁明がし辛い。
流石のリゼイルも口をつぐんでしまった。
──ガチンッ!!
ナイスタイミングだった。
一瞬部屋の中に訪れていた嫌な静寂が破られた。
玄関の扉の鍵が開く音が部屋に響いたのだ。
──ギィィィィッ…
「ただいまー。ん…?何で…私の家にユリエナが居るんだ!?」
帰宅し、玄関から居間まできたリゼルディアさん。
そこで立っていた私のほうをチラッと見た。
するととても驚いた様子で言ってきたのだ。
「お父さん、アヴィンの孫娘なんですって!!」
「アヴィンの孫娘だと…!?確かに髪の色はアヴィンだな?それ以外は…ユリエナの血が濃いみたいだな?」
とりあえず、祖父母の孫と私は認識されたようだ。
「初めまして!!私の名前は、アヴィルナ=リーデランザと言います。ですが普段は通称『エルフ』と呼ばれております。」
「リーデランザの名前、久しぶりに聞くな。私はリゼルディア=ゲルシェルトと言う。宜しくな?これでもアヴィンとは昔は親しい仲でな。」
既に一日、リゼルディアさんと会う時期が早い。
アヴィンから、大災の話を聞いている体にしよう。
「祖父に、大昔の大災を共に戦ったエタルティシアの親しい戦友が居ると、聞かされておりました。まさか、リゼルディアさんの事でしょうか?」
白々しく、以前ここで聞いた話を手短に話した。
リゼイルはその手があったかという表情で頷いた。
「アヴィンめ…。しっかりと孫に伝えておったか。恐らく、私の事だろうな?ただ、厳密にはもう一人居るんだが…。流石に、ユリエナの前では言ってはいないか…。」
「父さん、相談したいことがあるんだ。」
おいおいおいおい。
リゼイルよ、このタイミングでなのか?!
「今、私はエルフちゃんと話をしている!!」
確かに、今は私とリゼルディアさんが会話中だ。
「いいから聞いてくれ!!俺たち、英雄学校に入りたいんだ!!」
なるほど。
そのもう一人は、英雄学校に居る。
だから、良いタイミングとは思うが、強引過ぎだ。
「そうそう、エルフちゃん。そのもう一人は、その英雄学校に居るんだ。って…小僧!!英雄学校行きたいのか?!」
「ああ。エルフは魔物と交戦中に『空間転移』の魔法を受けて、クゥイルデまで飛ばされて来たんだ。エリンダルフまで帰るには今の俺たちでは心許ない。だから、英雄学校に入ったら鍛えて、仲間を募る予定なんだ!!」
主な目的的にはそんな感じだ。
入学さえしてしまえばこっちのものだ。
あとは、シルヴァス先生とミュレーゼ学長次第だ。
「なんだ?お前にしては、やる気じゃないか?お前、急に変わったよな?」
「エルフと出会えたからな?俺はこの出会いを大事にしたい。だから、エリンダルフまでエルフを送りながら、アヴィンさんに結婚の許しを貰おうと思ってる。」
こんな感じの会話を、以前もした気がしてきた。
リゼイルは意識してるのだろうか。
「それじゃあ、今から英雄学校へ編入手続きでもしに行くとしようか?」
リゼイルにしても、リゼルディアさんにしても…。
急なのが好きなのは分かってきた。
もう日は落ちようとしているが、私たちは英雄学校へ向かうことになった。




