第30話 再びエルフ♀さんになった日
守護者の宇宙船が地面に墜落する未来に変わった。
ここから先は、私の知らない未来が広がっている。
ただ、私はリゼイルたちを連れ帰ることは決めた。
それには、ユカさんたち守護者の協力が必要不可欠だった。
まず、クゥイルデの街まで運んで貰わなくては…。
先程私の指摘でようやく救難信号が発出された。
要するに、ユカさんはうっかりが多いのだ。
時間遡行前の私は、そのユカさんのうっかりが重なって、女性の身体にされたり、人間の街の郊外に降ろされたようだ。
普通に考えても、あり得ないこと尽くしだ。
それは上官が特例措置の判断を下したのも頷ける。
同級生の鈴木由香もかなりのうっかりさんだった。
それに加えて早とちりも多く、彼女に振り回されたクラスメイトの数は少なくない。
これも何かの偶然か?
考えたくもないが、あの日起きた暴走ダンプの事故だが、実は何かの陰謀でも隠されているのだろうか?
「少年。今日はお前さんのおかげで本当に助かったぞ?」
ユカさんから見れば10歳なぞまだまだ少年だろう。
まさか中の年齢が40歳近いとは思わないはずだ。
「いえいえ。当然のことしたまでです。」
自分が未来を変えてしまったからとは言えない。
しかし、それは私にとってもユカさんにとっても、悪い事ではなかった。
機体は大破したが、大事にはならずに済んだのだ。
「お前さん…さっきから、私の顔をまた見ておるだろ?そんなに私に似た女性が居るのか?」
無意識のうちに、彼女へ目をやっていたらしい。
この世界に来てから、色々不思議なことばかりだ。
あまり深掘りしたらしたで、私の身に危険が及ばないとも言えない。
「うーん…。ただの私の気のせいだったかもしれないです。あまりにも、ユカさんがお綺麗なので…。」
今更だが、歳上女性に憧れる少年を演出してみた。
それよりも私には大事なことがある。
「また、歳上の女性をからかうもんじゃないぞ?」
「えへへ…。」
まぁ、こんな流れでいいか。
それにしても、まだ迎えに来ないのだろうか。
「それにしても、遅いな…。こちらも心配になる。」
未来が変わったことで、この辺りも変わったのか。
「もしかして、空の上で交戦中かもしれませんよ?」
「まさかな?先程は被弾こそしたが、撃墜したぞ?」
そんな話をしている時だった。
突如として、私たちの上空だけが日陰になった。
空を見上げても視認すらできない。
「来たようだぞ?少年。」
そう言うと、無線機のようなもので会話を始めた。
それは私が絶対に聞いたことのある言葉だった。
「すまないな。横にいるエリンダルフの少年に命を救われた。クゥイルデに行きたいそうなんだが、連れていっても良いか?」
何を言っているか、私には筒抜けの言葉だ。
そう、ユカさんは日本語で僚機と交信している。
まさか、こんなところで日本語が聞けるとは。
このユカと名乗る女性、鈴木由香かも知れない。
私はそう思わざるを得なかった。
────
「少尉!!もう直ぐ降下ポイントに到着します!!」
あの後、私とユカさんは僚機に乗り込んだ。
僚機の操縦者はコウジと名乗り、軍曹だと言った。
恐らく、日本人なのだろう。
二人だけの会話には、日本語を用いていた。
この世界で日本語を話せば、秘匿性も高いだろう。
「分かった。そうだ、少年。これを持っておけ。」
そう言ってユカさんが私に何やら手渡してきた。
それは縦型のお弁当サイズの何かの端末のようだ。
「これは何でしょう?」
「これさえあれば、私が近くを飛行時に交信が可能だ。」
「そんな凄いものを、私に良いのですか!?」
「ああ…。大事にしとけよ…?」
何だ何だ、この展開。
いつもの流れであれば、惚れた腫れたなのだが。
「分かりました!!ありがとうございます!!」
「降下地点到着。アヴィルナくん、さっき登ってきた位置に立てるかい?」
「はい!!」
一秒でも早く降りて、リゼイルに会わなくては。
その思いが強かった私は機内の転送位置へと立つ。
「ありがとうな、アヴィルナ?また、連絡する。」
はじめてユカさんが私の名前を呼んでくれたのだ。
慌てて返事をしようと思ったが、既に地上だった。
また縁があれば会えるだろう。
それに、もし私に用があれば端末に連絡が来よう。
「さて…。」
そう言って私はクゥイルデの街道を歩き始めた。
確か、この街道で私はリゼイルと出会った。
こんな少年の姿だ、恐らくリゼイルも私とは気付かないだろう。
それにここは、リゼイルのいた場所より少し先だ。
「そうだ…。」
手持ちの荷物の中に、毒属性魔法の記された母親の手記があったのを思い出した。
──ペラッ…
──ペラペラペラペラッ…
実は、全ての頁の毒属性魔法を確認してはいない。
ここから街まではそこそこの距離がある。
手記を読み魔法を覚えるだけで暇つぶしにもなる。
凄く興味深い魔法を偶然見つけてしまった。
こんな魔法、誰でも使えたら正直ダメだと思う。
「『性別転換毒』!!」
私はもう一度だけ、女性の身体になりたくなった。
気づいたら私は、この魔法を詠唱し終えていた。
でも、手記に効果時間は記されていなかった。
なので、実際どれくらい続くのかが楽しみだ。
怪しげな桃色の液体に、私の全身は覆われた。
するとどうだ、驚くべきことが私の身体に起きた。
胸は膨らみ、下半身の膨らみが消えてしまった。
「わぁ…。」
実際、自分の手で触れてみた。
今朝方の身体の状態に似た感触をしている。
だけど、どこか違う感じで違和感がする。
これが私が女性になった時の感触なのだろうか?
そういえばそうだった…。
エルフだった時は、母親の身体のコピーだった。
さて。
気を取り直して、クゥイルデの街へと急ごう。
「おーい!!エルフー!!」
ん?
後方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
しかも私のことをエルフと呼んでいる。
ゆっくりと後ろを振り返った。
「あれ…。エルフ…だよな?」
駆け寄ってきたのは、リゼイルだった。
でも、何故だ?
明らかに、未来は変わっているはずだ。
なのに、どうしてリゼイルは覚えているのだ?
「そうだよ?リゼイル。でも、何で…私って分かったの?」
──ギュッ…
「今朝、俺は英雄学校の門を出て、エルフを呼んだよな?」
リゼイルは私の両手をそれぞれの手で握ってきた。
「私は、先に門を出たリゼイルを追いかけた。」
「やっぱりそうか!!あの記憶は、夢じゃなかったんだよな…。でも、エルフの姿、微妙に違うよな…?」
やっぱり、私の姿は違うのか。
私の感じている身体の違和感はそれだろう。
「リゼイル、私ね?本当の名前、アヴィルナって言うんだけど…。」
「そうなのか?!まぁ…細かいことは良いよ。お前が、俺のところに戻ってきてくれたんだからな?それだけで、俺はいい。」
──グイッ…
「えっ!?」
リゼイルは手を引いて私を自分の元へ引き寄せた。
──ギュゥゥゥゥッ…
「もう、どこにも行かないでくれ。」
そう言いながら、リゼイルは私を強く抱きしめた。
クゥイルデに戻ってきて良かったかも知れない。
エルミリスとは気持ちが微妙にすれ違っていた。
あの時、私の中でやるせない気持ちが生まれた。
だから私は、リゼイルに癒しを求めてしまった。
「うん。でもね?前は、私たち焦りすぎてたよね?だから、今度は…ゆっくり付き合いたい!!あと、私を呼ぶのエルフでも良いよ?」
「そうだな。俺は、アヴィルナ…いや、エルフが側にいればいい。なら、父さんと母さんに紹介しなくちゃな?」
リゼイルが分かってくれてホッとしている。
ここからは、本当に時間との勝負だ。
どれだけ早く、英雄学校に入学出来るかだ。




