第29話 変えられる未来
爆発音のした方へ私はベンチから駆け出していた。
森へ宇宙船が墜落した場所は、大体位置は分かる。
それに、森の木々が薙ぎ倒された場所が見えた。
──バチッ…バチバチッ…
墜落場所へ向かう為、森の中を駆けている時だ。
電気配線がショートする電気音が聞こえた。
音の方を向くと、銀色の宇宙船が墜落していた。
機体の損傷は酷く、機首が大破してしまっている。
本来であれば、私を巻き込んだ為大破を魔逃れる。
だが、私は自分に起こる未来を変えてしまった。
その為、機体は地面へと思い切り衝突したのだ。
「ねぇ!!大丈夫!?」
墜落した機体へと駆け寄った私は、声をかけた。
だが、中から反応がない。
機体の原動機は不明だが、制御は電気のようだ。
切れた配線から、バチバチと音と光を放っていた。
このままでは漏電して操縦者の救出も難しくなる。
とりあえず、この機体を機能停止しなくては。
「おーい!!この機体、止めるからねー?」
とりあえず、言っておけば良いだろう。
こんな状況下で、聞いてなかったはなしだ。
「ダ…メ…。」
ん?
機体の中から、声が聞こえた。
私は死属性魔法『機能停止』を詠唱し始めていた。
既に、私の身体中が翆色の靄に覆われてきている。
生まれつきの属性なら覚えていれば使えるようだ。
本来、この時点で扱えたのは毒属性魔法のみだ。
「ねぇ?中から出て来れる?この機体、爆発しそう!!」
──バチッ!!バチバチバチバチッ!!
さっきよりも、電気の火花の出る量が増えてきた。
それに、機体のあちこちから火花が出始めている。
「んんっ…。無理…。開かない…。」
──ドンッ…ドンドン…ドン…
また機体の中から声が聞こえた。
しかも、中から叩くような音までし始めたのだ。
もうわがままを聞いている暇はないようだ。
「この機体、止めるよ!!『機能停止』!!」
──ブゥンッ…
今まで原動機はしっかりと動いていたようだ。
無音だったが、急に止まる音だけが辺りに響いた。
すると、機体の各所から出ていた火花が止まった。
──プシュゥゥゥゥッ!!
次の瞬間、機体のハッチが強制的に開かれた。
機能停止した際、搭乗者を逃す機構なのだろうか。
「おーい!!大丈夫かい!?」
開いたハッチに向かって、私は叫んでみた。
「うん…。私は、無事だ…。んっ…眩しい…。」
ハッチから、この宇宙船の操縦者が這い出てきた。
ヘルメットとパイロットスーツを着用していた。
それにヘルメットに酸素マスクが装着されている。
転生する前の世界の戦闘機パイロットの出立ちだ。
よく見ると、胸の辺りがかなり膨らんでいる。
顔が見えないが、どうやら女性の操縦者のようだ。
まさか、私を押し潰した相手が女性だったとは。
となるとだ…。
私の身体を作り直すのを間違えたのも…。
私を降ろす場所を間違えたのも…。
この女性の操縦者が、原因だということになる。
「確か、侵略者から我々エリンダルフを、あなた方が護ってくれているのでしたよね?」
「何故、お前のような子供が知っている!!その話、どこで聞いた!!」
かなり強めな口調に変わったように聞こえた。
ヘルメットを被っているせいだろうか?
いや、違う。
いつの間にか私のすぐ側まで詰め寄ってきていた。
母親から、あの話を聞いておいて正解だった。
「私の母親は、そちらのデア=ウェンデグさんと内縁関係にあります。」
「なにっ?!デア中尉はM.I.A.なのだぞ!?」
M.I.A.とは、戦闘中に行方不明になった者を指す。
大抵は、死んだが遺体が跡形もない場合だ。
「少なくとも、10年前まではこの街に居たようです。一緒に、オル=ドルディオさんも居たようですが。」
エルミリスの父親の名前も出してしまった。
私の話の信憑性を増すには、これしかなかった。
「なんだと…。オル曹長も居たのか!?」
「オルさんは侵略者の攻撃で、一度あなたと同じく墜落していますよね?」
ここまで話を伝えられれば、上出来だろう。
──パチンッ…パチンッ…
私の目の前で女性がヘルメットの留め具を外した。
そしてヘルメットに手をかけた。
──スッ…
ヘルメットを脱ぐとそこには黒髪の女性が現れた。
何故か、見たらすごく懐かしい気持ちになった。
絶対、どこかで会っている。
誰だ…。
そうだ…。
私と共に暴走ダンプに轢かれた同級生だ…。
彼女にとても似ていた。
「少年よ、失礼したね…。オル曹長の件は私の入隊前の事なのだ。私は、ユカと言う。階級は少尉だ。」
ユカ?
どういう事だ…。
あの時の同級生の名前は、鈴木 由香だ。
確かに、私と共にダンプに轢き殺されたはずだ。
だが、もし助かったとしても年頃がおかしい。
明らかに二十代後半から三十代前半の姿なのだ。
あのまま生きていれば、40歳にはなっているはず。
「ん?不思議そうな顔をしているな?私の顔に何かついているのか?」
この状況、不思議そうな表情をしない方が変だ。
一体、どうなっているのだろうか?
「すみません…。ユカさんのこと、どこかでお見かけしたような気がしまして。」
「ん?少年…。まさか、その年で大人の女性に興味でもあるのか?」
いやいや…。
大きな勘違いだ。
ナンパでもしてると思っているのだろう。
「いえ…。でも、確かに見覚えがあるんです…。」
「面白いことをいう少年だな?名前は何と言うのだ?」
ああ。
そうだ。
名前を聞いておいて、自己紹介もまだだった。
「私の名前は、アヴィルナ=リーデランザと申します。以後お見知り置きを…。」
「おや?オル曹長を救助した、エリンダルフの一人も確か…リーデランザだった気が…。」
確かに侵略者と交戦中とは言え、異星へと墜落した。
それも、その星の種族に救出までされている。
記録として残っているとは、律儀な異星人達だ。
「はい。私の母親の名前はアヴィエラと申します。それに、もう一人のエリンダルフは、エルシェス=アルゼノンではないですか?」
「ああ、そうだ。でもまさか、オル曹長を救助したエリンダルフの子息とはな?それに、そのエルシェスとオル曹長は結ばれ、娘を一人もうけたと伝わっているが…。ただ、その一年後に侵略者の手により、オルとエルシェスは死の魔法に倒れたようだ。時同じくして、デア中尉も乗機に装備を残しM.I.A.になられているのだ。」
エルミリスの件は、公の情報と言うことか。
それに、例の死属性魔法で襲撃された件もだ。
デア中尉の件は母親から何となく聞いている。
それにしても、10年も探し回っているのか?
未だ母親と合流できていないのは何故なのか。
既に侵略者や魔族に殺されているのでは?
色々考えるうち、そんなことも頭によぎった。
「ユカさん?頼みたいことがあるのですが…。」
「何だ?言ってみろ。少年には命を救われたからな?私の聞ける範囲でなら頼まれてやっても良いぞ?」
そう言えば、救難信号は出てるのだろうか?
結構話し込んでいるが、僚機が来る気配がない。
それに、あんな衝撃音がしたのに誰も来やしない。
エリンダルフの街の警戒意識が低いのが分かる。
「クゥイルデの街まで、私を連れて行ってもらえませんか?」
今の私ではこの方法しか思いつかなかった。
本来の未来では、身体を作り替えられ降ろされる。
だから、クゥイルデ上空は飛行が可能なのだ。
恐らく、私を降ろした張本人はユカさんだろう。
声は変声機で変えてはいたが、口調が似ている。
「可能だが、少年よ少し待ってくれ…。僚機がなかなか来ないのだ…。」
「そういえば、救難信号は出しましたか?」
ユカさんの表情が一瞬だけ引きつって見えた。
「えっ?!ちょっと待っていろ?見てくる!!」
ハッチの中にユカさんが慌てて戻っていった。
すると直ぐに、機体に赤いランプが点灯し始めた。




