第28話 出発と帰還と
「ふぁぁぁぁっ…。流石に眠いぜ…。なぁ、エルフ?」
「まだ日も上がってないもんね…。」
私達は、英雄学校の裏口の門の前に居た。
あれから、食事や湯浴みをして、旅の支度をした。
クゥイルデの街から、エリンダルフの街までは、長い旅路になると予想された。
なので、持っていくものは慎重に選ばなければならなかった。
荷造りが終わった頃には、夜中になっていた。
だから、私もリゼイルは、殆ど寝れて居ないのだ。
「まぁ、早いうちに出れば次の街で休めるさ?」
「そうですよ?では、皆さん?参りましょうか。」
エルミリスの母親の件は、侵略者が絡んでいる。
なので、シルヴァス先生は情報の漏洩を警戒した。
その為、詳細についてはリゼルディアさんにのみ伝えたのだ。
「リゼイル、お前だけが頼りなんだ。任せたぞ?」
四人の見送りに、学長代理になった元英雄のリゼルディアさんの姿があった。
「ああ、父さん。任せろ!!あと…絶対、エルフを家に連れて帰るからさ?」
出発直前にリゼイルは気が早いことを、父親へと向かって言った。
「じゃあな?リゼ。アヴィンに会ってくるからさ。」
そう学長が言った後、何かを詠唱し始めた。
すると、ひとりでに裏口の門が開いた。
まずリゼイルが斥候を務め門を抜けた。
「エルフ?久しぶりの英雄学校の外の世界だぞ?早くこいよ!!」
「うん!!」
リゼイルに急かされた私は、門を抜けようと急いで歩を進めた。
──ピカッ!!
門を抜けた先は、どこかの山の上だった。
英雄学校は山の山頂付近に建てられていたのだ。
それで外敵からの侵入が殆ど無かったのだ。
門から少し離れた場所で、リゼイルは眼下に広がる景色を見渡していた。
「ほら、こっち来てみろよ?凄く綺麗だぞ?」
「うん!!」
私の心の中はもうリゼイルでいっぱいだった。
だから、彼から離れられなくなってしまっていた。
リゼイルのところに私は駆け寄ろうと踏み出した。
すると一瞬、辺りは眩いばかりの光りに包まれた。
その瞬間、私は意識を失った。
────
夢見心地のふわふわとした感覚の中に私は居た。
この感覚は二度目だ。
そう、クゥイルデの街道沿いに降ろされた時だ。
「(やっとあなたを見つけられた。こちらの手違いで身体を間違えて作り直してしまった。それに降ろす場所も間違えてしまっていた。本当に申し訳ないことをした。よって、我々はあなたの時間を、私の乗機に巻き込まれる前まで戻すことを決めた。これは特例の措置だ。だから、あの日のあの時間のあの場所には、絶対に近づかないで欲しい。)」
頭の中に声が聞こえた。
変声機を使ったような声だった。
私は、このままの姿でもう良いのだ。
この場所が良いのだ。
リゼイルと母親が居るこの場所が。
だから、ダメだ!!
このままでは時間を戻されてしまう。
でも、何故か口が動かない。
「(それでは、もう会うこともないだろう。では…。)」
私の口よ…動け!!動け!!動け!!動け!!
「ダメ!!」
「(『時間遡行』!!)」
同タイミングだったが、間に合ったかに見えた。
──ガバッ!!
私は慌てて飛び起きると、実家のベッドの上にいた。
「どうしたの…アヴィルナ?さっき、ダメって…凄い大声の寝言言ってたけど…。」
エプロン姿のエルミリスが部屋の扉の付近にいた。
私の大声を聞いて、駆けつけてきてくれたのだ。
自分の身体を触ってみると、男の身体をしていた。
あれだけ会いたかったエルミリスを前にしているのに、リゼイルの事が気になっている私がいた。
しかし、今の私は男の身体なのだ。
だから、このままリゼイルに会ったとしても、全く相手にはされないだろう。
リゼイルはエルフとしての私が好きなだけなのだ。
だが、エルミリスの母親であるエルシェスさんを救うには、リゼイルの持つ生属性魔法が必要不可欠なのだ。
クゥイルデの街まで、逆に私がリゼイル達を迎えに行かないとダメみたいだ。
でも、不安な事もある。
リゼイルが、男の私の言うことを聞いて、素直についてきてくれるのだろうか。
まだ会ってもいないが、気が重い。
「夢の中で、エルシェスさんを救う鍵を見つけたんだ。あともう少しのところで、目が覚めそうになってね?その時の声だと思う。」
「お母様の名前…アヴィルナには教えてないはずなのに…。何で…?!」
やっぱりエルミリスからは名前、聞いてなかった。
でもこれで私の話に信憑性が増したはずだ。
「オルさんのことは、本当に残念だったね…。でも、エルシェスさんにかかった死の呪いを、解けるかも知れないんだ!!」
「お父様の名前まで…。一体、どうして!?アヴィルナ…まさか私の家のこと調べたの?!」
エルミリスは私の方を、思い切り睨みつけてきた。
確かに、疑うのも無理ない。
両親の件は、恐らくは両家で極秘事項なのだろう。
「ううん。そんなことはしないよ。」
「なら…何で!!アヴィルナは絶対、知ることはないはずだよ!!」
もう、私は決心した。
何とかして、クゥイルデの街に戻る。
そして、最短で…皆を連れて英雄学校の門を出る。
「やっぱりそうなんだね…。私が今日見ていたのは正夢なんだ…。」
リゼイル、シルヴァス先生、学長。
今朝まで、確かに一緒に居た。
でも、夢のように…私だけが戻されてしまった。
まるで正夢だ。
「アヴィルナ、どういうことなの…?説明してよ?」
「分かった。簡単に説明するね?今日、私は学校に行ったまま、記念公園でお昼の最中に宇宙船の事故に巻き込まれて、行方不明になる。でも、悲しまないで欲しい。何年かすれば…私が、エルシェスさんの呪いを解ける人物を連れてくるから。」
これから起きることは、見た場面は予測できる。
その見たり聞いた記憶をうまく利用すれば良い。
「お母様の死の呪いを解ける人がいるのね!?」
私が行方不明になることについてはスルーだ。
エルミリスには母親の方が大事なのかも知れない。
まだ11歳だ、無理もないか…。
「うん、居るんだ。でも、非常に遠い場所に居る。だから、エリンダルフの街まで長い時間がかかってしまうんだよ。」
「分かった!!私、アヴィルナの帰り、待ってる。その頃には、お腹の子も…。」
この流れは…。
あの、お弁当の蓋の上に添えられていた手紙の…。
「え…?!」
「うふふ。アヴィルナ?私たちね…?お父さんとお母さんになるの!!」
少しだけ、私の知る未来とは変わってしまった。
本来、学校の記念公園のベンチで私はこれを知る。
どれだけこの先の未来への影響が出るのだろう?
「そうなのか!?なら、私は学校を休んだほうが…。」
「気にしないで?私は、お母様が目覚める方が嬉しいよ?だから、アヴィルナ?期待してるから!!」
うーん。
やはり、私よりも母親の方が優先度が上なのか。
少し、私は複雑な心境に陥ってしまった。
────
前回の記憶の通り、エルミリスは学校を休んだ。
だが、違ったこともあった。
お弁当の入った手提げ袋の中に手紙はなかった。
そして今、私は記念公園のベンチに座っている。
そう、例の宇宙船との衝突が起きる少し前だ。
「いただきます。」
私は、エルミリスの手製お弁当を食べ始めた。
ショッキングな手紙もない。
未来を知っているという余裕が私をそうさせた。
それから少しして、お弁当が食べ終わる頃のこと。
記念公園の森の上空が、ピカッピカッと光始めた。
恐らく侵略者と、私を潰した守護者の宇宙船だ。
上空でドッグファイトを繰り広げている光だろう。
今までで一番眩い光を放ったのが見えた。
──ドォォォォンッ!!
森の方から轟音が聞こえた私は、急いで向かった。




